稲葉NHK新会長が職員へ異例のメッセージ 前田・前会長の“銀行員的改革”はなぜ不評だったのか

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 今年1月に就任したNHKの稲葉延雄新会長(72)が3月1日、職員向けに「改革の検証と発展へ」と題したメッセージを出し、組織内で不満が渦巻いている前田晃伸前会長(78)による改革を再検討する考えを示した。前会長による改革を新会長がたちまち見直すのは、極めて異例のこと。NHKの現状はどうなっているのか。

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 現在、NHKは毎月20~30人程度の職員が依願退職している。約1万人体制とはいえ、多い。そもそも離職率の低かった組織なのだ。前田体制になってから辞める職員が増えた。

 前田氏は元みずほフィナンシャルグループ会長。2020年1月にNHK会長に就くと、今年1月の退任までの3年間に、ドラスティックな改革を行った。

 まず人事。「役職定年制」を導入した。52歳以上の職員は職階に応じ、ある年齢に達したら役職を剥奪され、平社員になった。これにより管理職は3割も減り、人件費コストは大幅に削減された。

「銀行屋の発想」50歳以上の職員を疎んじる傾向も

 それだけではない。職員によっては50代半ばから賃金が時給制になった。これに青ざめる職員が相次いだという。前田体制は職員たちの暮らしをどう考えていたのだろう。

「ベテラン職員には鬱屈が溜まり、若手や中堅の職員も未来に希望が持てなくなった。これでは退職者が増える」(職員)

 ベテラン職員たちを戸惑わせた改革はこれにとどまらない。幹部職員になるためには試験に合格しなければならなくなった。例えば水戸放送局、静岡放送局など地方局の局長も試験で決まるようになった。

 試験で誕生した実績の乏しい40代の局長が、それに勝るキャリアと指導力を持つ50代の記者やディレクターたちに指示を与えるようになった。これでは組織に軋みが生じるはずだ。

 職員たちは口々に「銀行屋の発想」と不満を漏らしたという。確かに、銀行界は経営陣に気に入られた一部エリートを除き、50歳以上の職員を疎んじる傾向がある。定年前に片道切符で出向させられる社員が多い。

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