なぜ日本の高齢者は不幸なのか 千人超の最期を診た医師が語る「幸福な老後」の作り方

ドクター新潮 ライフ

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人生最終盤の味わい方

 そうなる前に、いざという時にどうしてほしいかを家族や医療関係者と話し、計画しておく。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)です。高齢者が提示しておくべき具体例として、東京都医師会は次の7点を挙げています。

・大切にしていること

・自分の生き方(心情)

・病気になったときに望む医療やケア、望まない医療やケア

・自分で意思表示ができないときに望む治療

・自分の代わりに判断してほしい人

・これだけは嫌なこと

・最期まで暮らしていたい場所

 これを参考に、心臓マッサージを望むか、AED(自動体外式除細動器)を使用してほしいか、胃瘻(いろう)を受け入れるか等々、自分が願う最期のあり方を家族と話し合って記録し、主治医に伝えておく。それを繰り返すことで「幸せな老後」に備える。

「幸福感は小さいかもしれないけれど、とにかく長生きする」

「いたずらな延命措置は望まず、残された時間の幸福感の向上に努める」

「自分では決めることができないので、全て医療者や家族に委ねる」

 どの選択が正しいという話ではなく、選択肢は多種多様で、選択はその方次第です。価値観を強要されることがあってはなりません。ということは、“虐待”を拒絶する自由も、あるいは施設に入った後もケーキやお酒、タバコを楽しみながら、たとえ短い時間であろうと人生の最終盤を存分に味わい最期を迎える自由もあるはずです。それも「幸福な高齢者」のひとつの姿だと思うのです。

諸岡真道(もろおかまさみち)
元日本赤十字社医療センター救急医。1988年生まれ。昭和大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターに勤務し、救急医として千人超の最期を診てきた。その経験に基づき、2022年8月、内閣府の「医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」で救急医療等のあり方を提言。同年11月に『「幸せな90歳」を迎えるために家族に知って欲しいこと』を出版。

週刊新潮 2023年3月2日号掲載

特別読物「なぜ日本の高齢者は『不幸』なのか…千人超の最期を診た救急医が提言 『幸福な老後』を迎えるための『準備』」より

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