なぜ日本の高齢者は不幸なのか 千人超の最期を診た医師が語る「幸福な老後」の作り方

ドクター新潮 ライフ

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アメリカでは高齢になると幸福感が上がるのに…

 米国のシンクタンク、ブルッキングス研究所が行った調査をもとに、「年齢」を横軸、「幸福度」を縦軸にした表を作成すると、英米独などでは「U字形」になります。つまり、無邪気な若い頃は幸福感が高く、社会的責任が増す40~50代に向けて幸福感は一旦低下するものの、そこを超えた高齢者の幸福感は再び高くなる。

 一方、日本の場合は40~50代で幸福感が低下するのは変わらないものの、英米独などとは違って高齢者になってもそれが回復せず、亡くなるまで最低水準が続きます(08年版の内閣府「国民生活白書」)。高齢になるほど幸福感が低下する。言い換えれば、日本では「加齢=不幸」となってしまっているのです。

 もちろん、原因はさまざまに考えられるでしょうが、そのひとつとして「現代日本人の死生観」が挙げられるのではないかと私は感じています。

「死生観」は多様か

 救命救急センターでは、多い時で1日に5~6人の方の最期を診てきました。そして、80代、90代という高齢の患者さんの中で、目の前に死が迫り、だんだんと体が弱り、できないことが増えてきた段階で「死にたくない」「生き続けたい」と言う方に私は出会ったことがありません。

 多くの方が、「この年まで生きられてもう十分」「やりたいことはやりきった」「これ以上、迷惑をかけたくない」と口にする姿を目の当たりにしてきました。人生の最終盤を迎えて自らの死を受容している高齢者は決して少なくない。これが救急医療の現場に立ってきた私の偽らざる実感です。

 事実、民間会社による死についてのアンケート調査でも、多くの日本人が死に不安を抱える一方で、死そのものに伴う「自分はどうなるのか、どこへ行くのか」という不安を感じている人は20.7%と、さほど多くはありません。いたずらに死を恐れているばかりではないといえるのではないでしょうか。

 にもかかわらず、先に説明した通り日本の高齢者の幸福感は低い。それは、「幸福であること」の価値観が極めて限定されているせいなのではないか。多様性の時代といわれるなか、死生観だけは「生命期間の延長=幸福」というただひとつに縛られている気がしてなりません。寿命が近づいていると思われる高齢者であっても、とにかく「死なせない」。それこそが高齢者にとっても幸福なのだと――。

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