「駆け込み贈与」が不可能に? 大増税時代に資産を移行するためのメソッドとは
不動産贈与のリスクが低減
男性の平均寿命は現在、81.47歳。後期高齢者となる75歳から生前贈与を始めたとすると、非課税範囲で現金を贈与しても、死亡時の相続財産に加算しなくてはならないことが大いにあり得るのだ。
また、暦年贈与に比べて利用者が少なかった相続時精算課税制度についても、改正がなされている。曽根氏によれば、
「この制度は2500万円以内の財産を分割で贈与する場合、少額でもそのつど税務署への申告が義務付けられており、手続きが大変でした。これまでおもに利用されてきたのは相続時にもめそうなケース。遺言書とセットにするなどして財産の分け方を明確にして先渡ししておく。そんな“争続”対策で用いられることが多かったといえます」
それが24年1月以降は、
「合計2500万円までの贈与税非課税枠とは別に、毎年110万円までは基礎控除で税務署への申告も不要になります。この控除分は相続財産に加算されることもありません。申告のわずらわしさが軽減され、多くの人にとって暦年贈与と同じように使いやすくなったといえるでしょう」(同)
同制度を用いて不動産を受贈した場合、後々の天災などで価値が大幅に毀損されるケースがままみられたのだが、これも前出の深代理事長によれば、
「今回の改正では、のちの災害により一定の被害を受けた不動産の場合、減額して計算することになりました。減額範囲や証明方法などは今後の議論が待たれますが、不動産贈与におけるリスクがある程度、回避できることになったのです」
「特例」は延長でも…
さらに、贈与の特例に関しても“動き”がみられた。深代理事長が続ける。
「祖父母や親から30歳未満の子や孫に教育資金を贈る際、1人あたり1500万円までは非課税となる『教育資金の一括贈与特例』という制度があります。その資金は学校の入学金や授業料などに使え、うち500万円までは学校以外の塾や習い事などの月謝にも用いることができます」
この特例が始まったのは13年度。もう一つ、その2年後に始まった特例が、
「18歳以上50歳未満の子や孫に対し、1千万円まで結婚・子育て資金を非課税で贈れる『結婚・子育て資金の一括贈与』です。こちらは不妊治療費からベビーシッター代まで賄うこともできるのです」(同)
が、最近はともに利用件数の落ち込みが激しい。「教育」特例は22年9月末の時点で累計25万5千件超ではあるが、その前の半年間では3360件の利用にとどまっている。また「結婚・子育て」特例は累計で7443件。直近半年間はわずか80件だった。
「これら二つの特例は、世代を超えた格差の固定化につながりかねず、創設当初と比べて適用件数が大きく減少していることもあり、もっぱら廃止されるのではとささやかれていました。ですが、蓋を開けてみれば『教育』は3年延長して26年3月末まで、『結婚・子育て』は2年延びて25年3月末まで、それぞれ適用されることとなったのです」(同)
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