「駆け込み贈与」が不可能に? 大増税時代に資産を移行するためのメソッドとは
基礎控除は存続するが…
こうしたこともあり、
「近年、広く活用されてきた暦年の『110万贈与』が使えなくなるのでは、といった懸念の声が出ていました」
そう話すのは、税理士の深代勝美・深代会計事務所理事長である。
「『令和3年度税制改正大綱』で与党は、『資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築』に向けて検討を進めるとしていました。つまり生前贈与の仕組みを使った節税をやめさせようということですが、実際に110万円贈与を廃止するとなれば、納税者の金銭的負担増だけでは済まず、税務署も税額数千円程度のやり取りを逐一チェックしなければならない。膨大な作業を考えれば、基礎控除の撤廃は現実的ではなかったのでしょう」
それもあって今回の改正では、ひとまず110万円の基礎控除は存続することになったが、その代わりに、
「相続財産への加算、いわゆる『持ち戻し』期間が変更されました。現行制度では、贈与者が亡くなって相続が始まる時点から遡って3年以内の贈与については相続財産に加算し、相続税を計算することになっています。死期を悟ってからの“駆け込み贈与”を防ぐためでもありますが、これが拡大され、加算期間が『7年以内』へと大幅に延長されることになったのです」(同)
米国では生前贈与での節税が不可能
ちなみにこの「持ち戻し」は、英国の制度では7年とされており、フランスは15年、ドイツは10年。米国に至っては無期限、すなわち生前贈与による節税が不可能となっている。
「税理士会としても、余りに急な改正は実務的にも問題が生じるとして、3年以内から『5年以内』ないし『7年以内』程度の延長が良いのではと提言してきましたが、政府はやはり、欧米並みの税制にしていきたいのだと思われます」(同)
今後は、相続開始3年以内に加え、延長された4年間の贈与分も加算される。その際、7年前~4年前の贈与額から総額100万円が控除されることにはなったが、かりに毎年110万円の枠を利用して7年間贈与を続けていれば、670万円が相続財産に加算されてしまう計算だ(掲載の図)。
もっとも、いきなり7年に延びるわけではなく、
「2027年1月1日以降に相続が開始される分から、加算期間が順次延長されていきます。従って、実際に『7年以内』となるのは31年1月以降となります」(同)
とのこと。相続実務士で「夢相続」代表の曽根惠子氏が言う。
「このたびの『持ち戻し』期間の延長は、多くの方に影響が出るだろうと予想されます。一般的に贈与を始めるタイミングは、リタイア後しばらくしてから。大体70代から始める方が多いのですが、改正を受けて60代から始められるように準備をしておくことが大事だと思います」
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