中国のスパイ気球を日本は撃墜するべきか なぜアメリカは1発で仕留められなかった?

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 2月2日、アメリカ国防総省は領空を侵犯する気球を確認し、翌々日、空軍機が撃墜した。日本でもここ数年、何度も似たような気球が目撃されているが、当局は牧歌的な対応に終始。果たしてこのまま放置してよいのか――。

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「気球に聞いてください」

 正体不明の気球が日本に飛来した2020年、当時の防衛大臣だった河野太郎・現デジタル大臣は記者会見でその“物体”が再飛来する可能性についての質問にこう答え、ひんしゅくを買った。

 それから3年。

 気球の話題が突如“浮上”してきたのは今年の2月に入ってからだった。アメリカ国防総省が2月2日に、領空を侵犯する気球を確認し、翌々日、空軍機が撃墜。さらに12日までに三つの気球を撃墜する一方、中国側は最初の気球が「民間の気象観測用」だと主張し、猛抗議を繰り返した。

 そもそも、日本でもここ数年、似たような気球が数回目撃されている。中でも話題になったのが、20年6月。宮城県仙台市の上空に浮遊する白い気球が地上からの目視でも確認され、メディアで大々的に報じられた。

 しかし、当局は牧歌的な対応に終始した。当時の本誌(「週刊新潮」)の取材では、

「テロ目的ならこちらの管轄になるのですが、正体がわからないので……」(宮城県危機対策課)

「状況把握に努めましたが、確認には至らなかった」(宮城県警)

「対処の必要はないと判断して動いていません」(航空自衛隊松島基地)

 さしずめ「踊る大捜査線」や「シン・ゴジラ」の一場面か。当事者意識の薄い組織の姿が浮き彫りになったのだった。ちなみに、冒頭の河野大臣の発言もこの時のものである。情けないことに今回、アメリカが撃墜したことにより、気球が安全保障上の「脅威」であることが日本でも露見したというわけなのだ。

レーダーに映らない

 その気球の目的は、基地から発せられる電波情報を収集することだともいわれる。

 元空将で麗澤大学特別教授の織田邦男氏によれば、

「アメリカが警戒しているのは、気球の軍事化でしょう。いまの技術、スーパーコンピューターとAIを用いれば、定点に向かって気球を動かすことができる。例えば、気球に生物兵器を搭載し、アメリカの核が配備される基地にまき、無力化させることも将来的にあり得るわけです。通常、渡り鳥やバルーンなどはレーダーに映らないよう設定されています。軍事用気球が自在に運用できるようになれば、とてつもない脅威です」

 旧日本軍の風船爆弾を彷彿とさせるが、ともあれ、防衛省はこれに慌てた。14日、日本に飛来した気球が「中国の無人偵察用気球と推定される」と発表し、さらに浜田靖一防衛相も他国の気球に対して、

「空対空ミサイルを発射することも含め、武器を使用できる」

 と、撃ち落とせるとの見解を会見で述べたのである。そしてすぐさま、有人機相手に限っていた自衛隊法の武器使用の解釈を変更し、無人機でも一定の条件を満たせば使用できる、とした。

 では、日本が気球を撃墜することにハードルはないのか。自衛隊の場合、戦闘機の主力はアメリカが使用したF-22戦闘機よりも高高度での活動が劣るといわれるF-15。さらに撃墜対象となる気球は、アメリカでは高度1万8千メートルから2万メートルを浮揚していた。

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