【ブラッシュアップライフ】ひねりの利いたバカリズム脚本 過去の3作品から進化を読み解く
「時間軸」を操る連ドラ脚本第1作『素敵な選TAXI』
バカリズムが初めて脚本を手掛けた連続ドラマは、2014年の『素敵な選TAXI』(関西テレビ制作・フジテレビ系)だ。タイトルの「選TAXI(せんタクシー)」は「選択肢」を意味している。
何かしらトラブルを抱えた人物が偶然乗ったタクシー。それは過去に戻れるタイムマシンだった。運転手役は竹野内豊だ。制服にひげという出で立ちで乗客の話をじっくりと聞き、彼らを「人生の分岐点」まで戻してくれる不思議なおじさんを飄々と演じており、ちょっとした新境地だった。
乗客は、恋人へのプロポーズに失敗した売れない役者(安田顕)、駆け落ちする勇気がなかった過去を悔いる民宿の主人(仲村トオル)、不倫相手である社長と嫌な別れ方をした秘書(木村文乃)などだ。彼らは問題の分岐点まで戻って新たな選択をするのだが、それだけで全てがうまく運ぶわけではない。
バカリズムの脚本は“ひねり”が利いており、見る側を簡単に「安心」させたりしない。「高を括る」を許さない。予測を気持ちよく裏切るのだ。その姿勢は最新作『ブラッシュアップライフ』にも通じている。
何より連ドラ脚本の第1作で、すでに「時間軸」を操る物語にトライしていたことは特筆すべきだ。バカリズムはこの脚本で「第3回・市川森一脚本賞」の奨励賞を受賞した。
「人生の岐路と選択」がテーマ『かもしれない女優たち』
『素敵な選TAXI』同様、2015年の単発ドラマ『かもしれない女優たち』(フジテレビ系)も「人生の岐路と選択」というテーマを扱う野心作だった。
ヒロインは竹内結子、真木よう子、水川あさみの3人。いずれも「本人」を演じることになる。女優として成功している彼女たちが、「あり得たかもしれない、もう一つの人生」を競演で見せるところがミソだ。
たとえば、現実の竹内は15歳で事務所にスカウトされたが、「もし、それを断っていたら」という設定でドラマが進む。大学を出て編集者になった竹内は、恋人との結婚を望みながら、なかなか実現できないでいる。
一方、女優志望の真木と水川は、アルバイトを続けながらオーディションを受けては落ちまくる日々だ。エキストラ扱いで顔も映らない端役を務める現場。邦画を観るとみじめな気分になるからと、レンタルビデオ店で洋画ばかりを借りる。さらに、いきなり売れっ子になった新人女優に対して複雑な思いを抱く。もうあきらめようかと思っていた頃、2人に思いがけない出来事が起きる。
バカリズムの脚本は、下積み女優にとっての“芸能界のリアル”を苦笑い満載のエピソードで丁寧に描いていく。
3人の女優それぞれの軌跡と個性を生かした物語だからこそ、本人たちが演じる「あり得た自分」が絶妙にからみ合う。その結果、実に後味のいい「パラレルワールド」が成立していた。
もう一つの別の世界であるパラレルワールド。『ブラッシュアップライフ』で描かれる「複数回の人生」もまた同様だ。
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