僧侶、年商170億円の社長、現場監督も… 元プロ野球選手たちが語る驚きのセカンドキャリア

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会議で1時間怒鳴ったり

 営業も担当した。その会社はデッキプレートの工事を得意としていた。高層建築物のいちばん下の床に用いる波形の鋼板の敷設工事を行うのだ。

 最初は工事現場をローラー作戦で営業したが空振りばかり。ならばと社会人野球の人脈を使って、新日鉄などメーカーにアプローチし、工事情報を入手して営業を仕掛けた。

 ここまで頑張れたのは、当時の社長が巨人の藤田元司元監督と親しく、「藤田さんや紹介してくれた末次さんの顔に泥は塗れない」という思いもあったからだ。

 転機が訪れたのは、勤務先の会社が経営不振に陥った時。休眠会社に同僚2人とともに移り、同じデッキプレートを扱う会社としてスタート。数年後には周りに推されて松谷が社長に。

「売り上げが一向に伸びない時は、“何でだ”とイラついて、気付いたら会議で1時間一人で喋ったり怒鳴ったりしていました。野球は9人でやるものだけれども、ピッチャーはマウンドに上がると誰も助けてくれない。どうしても一人でやる。その癖が残っていたのかもしれないですね。ある時、野球とは逆のことをやればいいんだと気付いた。以来、俺が俺がの“我”を捨てて、積極的に社員に任せるようにしました」

 虎ノ門ヒルズ、イトーヨーカドーやイオンの店舗、その他、銀行、ホテル、大学、病院、自治体など多方面の工事を担当し、売り上げを増やした。

スポーツ選手が学べる環境

 目下の課題の一つは、リクルーティング。古巣である巨人やオリックスに2軍の試合で活躍した選手を表彰する制度をつくったり、野球の大会を協賛したりして、選手がスチールエンジに関心を持ってもらえるような試みをしている。

「入社した人がたとえ建設業で力を発揮できなくても、他の才能を見つけられるように、多角化を図っています。不動産の他に、職人さんの健康などを考えた食品を提供する会社を立ち上げて、レトルトカレーなどを販売したり、ECサイトで防災商品やギフトなどを販売したりしています」

 松谷は、スポーツ選手が現役の時からスポーツ以外のことも学べる機会をつくってはどうかと提案する。

「アメリカではアマチュア選手の時から社会のことを勉強させるカリキュラムがあるようなんです。そうすることで人間的な成長も促すことができる。社会に出た時だけでなく、選手としての向上につながるかもしれない。日本でもやってほしいです」

 それぞれの第二の人生は、野球でのキャリアを断つことから始まった。いったんは低迷しても、その覚悟が次へのステップへとつながっている。

西所正道(にしどころまさみち)
ノンフィクション・ライター。1961年奈良県生まれ。京都外国語大学卒業。著書に『東京五輪の残像』『「上海東亜同文書院」風雲録』『絵描き 中島潔 地獄絵1000日』など。

週刊新潮 2023年3月2日号掲載

特別読物「現場監督に僧侶に会社社長まで プロ野球選手『第2の人生いろいろ』」より

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