「球速には興味がない」 中3の頃のダルビッシュ有が語った投手論(小林信也)

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「球速には興味ない」

「アメリカの食事はおいしくなかったから、メジャー・リーグには行かない」

 15歳のダルビッシュは言った。バックネット裏で後輩たちの打撃練習を見ながら会話するうち、不意にダルビッシュが席を立った。マウンドに上がり、打撃投手を買って出た。気持ちが乗って、私にピッチングを見せてくれた感じだった。

 気持ちよさそうに楽々と投げる程度の投球だったが、聞いていた評判とまったく違う魅力的な投球に私は思いがけず感激し、興奮を抑え切れなかった。

 剛速球をビュンビュン投げ込んだのではない。むちのようにしなる速球と、抜いたボールのコンビネーションで、打者たちをクルクルと空転させた。打者との間合いを自由自在に操るセンスに目を見張った。

(中学3年生で、この投球ができるのか!)

 それは私が高校野球の投手だったころ、空想の中で憧れ、理想とした投球そのものだった。私は、投球術はあったが球威がなさすぎて、頭に描く投球はできなかった。ところが目の前の中学3年生は、球威と投球センスの両方を兼ね備え、見事に理想を体現していた。

(このままプロ野球に入った方がいいんじゃないか)

 本気でそう思うほどだった。高校野球でやることなど、無意味ではないのか。

 満足そうに笑いながら戻ってきたダルビッシュに、

「よくわかったよ」

 私はそんな言葉をかけた。彼が目指す投手像がはっきりと見えた。ダルビッシュは、彼が見せようとしたものを私がきちんと理解したと察してくれたようだった。

「球速には興味がないんです」、うれしそうに言った。投手の価値や能力をスピードガンの数字でしか評価しないメディアや野球関係者への失望のため息……。

「バッターを打ち取る投球術が楽しいんです」

 夢を語るような表情で、彼が魅せられ、求め続けるピッチングの境地を語ってくれた。

 高校時代、そしてプロに入った当初も、「球速より投球術が魅力」というこだわりで葛藤があったように見えた。筋トレで球速や球威を上げることばかり強要される野球界に抗い、理想の投球とそれがかなう肉体を試行錯誤で求めていたのだろう。それは孤独な闘いだったに違いない。

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