冬ドラの10代視聴率1位はなぜ「大病院占拠」なのか? テレビ離れでも10代向け番組が増える裏事情
若者向け番組の壊滅を許さなかったスポンサー側
ダウンタウンの松本人志(59)が、もう世帯視聴率の時代ではなく、コア視聴率重視だとツイッターで発言してから1年半以上。ジャーナリストの池上彰氏(72)も「いま各テレビ局は、世帯視聴率は問題にしていないんです」(東洋経済オンライン、2022年6月3日)と書いている。
10代がテレビを見なくなった理由の1つも世帯視聴率オンリーだったから。2020年4月に個人視聴率が全国的に導入されるまで、番組の価値が世帯視聴率で決まっていたから、テレビ局が10代向けの番組の制作を怠っていた。世帯視聴率を使っていると、視聴者数の多い世代に向けた番組が増えてしまう。
50代以上の方ならご記憶の通り、かつては午後7時台に10代向けドラマがズラリと並んでいた。引退した木之内みどりさん(65)の人気絶頂期に放送されたTBS「刑事犬カール」(1977年、月曜午後7時半)、数々の流行語を生んだフジテレビ「スケバン刑事」(1985年、木曜午後7時半)などである。
ところが、高齢者が激増する一方で10代が急減した。1980年に高齢者(65歳以上)は約1065万人だったが、2020年には3603万人に。2倍である。一方、10代は1980年に1732万人いたものの、2018年には1192万人にまで減った。
世帯視聴率の場合、家族のうち誰か1人でも観ていればカウントされる。人数の多い高齢者に向けて番組をつくったほうが、数字が稼げたのだ。その上、年齢が高くなるほどテレビが好き。少数派の10代向けの番組は追いやられた。
少子化は進む一方なので、もしも世帯視聴率時代が続いたら、10代を含めた若者向け番組は壊滅状態になっただろう。だが、それをスポンサー側が許さなかった。テレビが権威を維持している米国では1990年には個人視聴率を導入している。日本のスポンサー団体も米国並みの調査を望んだ。
「大病院占拠」は以前なら午後7、8時台のドラマ
制作費を負担するスポンサーの意向も理解できる。高齢者は若者よりお金を持っているものの、使う機会が限定されている。高齢者が好む番組ばかりではCMが功を奏しにくい。
一方、現役世代はお金を使わざるを得ない場面が多い。出掛ける機会が多いから衣類は頻繁に買わなくてはならないし、化粧品の消費量も多い。家を買うのもローンを組むのも現役世代が大半だ。
最近、バイトの紹介業者や就職、転職斡旋業者のCMが頻繁に流れるが、これもターゲットは現役世代。ネットを使った学習教材のCMも現役世代とその子供たちを狙っている。高齢者より現役世代のほうが、支出額がずっと多いのは総務省統計局の家計調査でも裏付けられている。
これからはドラマを含めた10代向けの番組がもっと増えるに違いない。視聴者の顔が見えない世帯視聴率時代が終わり、どの世代が観ているか分かるようになったためだ。
「大病院占拠」や「夕暮れに、手をつなぐ」は以前なら午後7時台、同8時台に流れていたドラマだと考えると、両作品への理解が深まるのではないか。
映画がそうであるように、全世代が満足するドラマをつくるのは至難なのだ。
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