出稼ぎ労働者が嫌気を差して現場復帰せず… ゼロコロナ解除でも中国経済は回復しない根拠
戻ってこない労働者
製造業の景況感もなかなか上向いてこない。
1月の財新中国製造業購買担当者指数(製造業PMI)は49.2となり、好不況の判断の目安となる50を6ヶ月連続で割り込んだ。
気になるのは、調査対象企業から「新型コロナの感染拡大により、離職者の穴を補充することができなかった」との声が相次いで寄せられたことだ。
春節が終わった中国各地の製造拠点に出稼ぎ労働者が戻ってこない事態となっている(2月20日付ブルームバーグ)。長期にわたるロックダウンや工場閉鎖で給料が支給されなかったことに出稼ぎ労働者が嫌気を差したからだとされている。
中国経済を支えてきた出稼ぎ労働者約3億人のうち、生産現場に復帰していない割合を示す公式のデータはないが、「春節で帰省した労働者の4割近くが故郷での仕事を希望しており、そのうち約15%は既に職に就いている」とのアンケート結果がある。
コロナ禍前から中国の労働力は縮小しており、若者が安い賃金で労働集約的な製造現場で働きたがらない傾向も強まっていたが、コロナ禍がこれに輪をかけた形だ。
働き手を確保するためには高い賃金が不可欠だが、現時点で既に「中国の欧米との賃金格差は大幅に縮小している」との分析がある(2月7日付フォーブス)。
政府の支援も期待薄
「生産コストの低さ」という長年の優位性が喪失しつつある中国では産業構造の高度化が待ったなしなのだが、思わぬ障害が立ちはだかっている。
バイデン米政権が発動した中国企業に対する半導体を始めとする最先端技術に関する規制が大きな足枷となっている。日本の大手電子部品企業である京セラが「米国の規制により中国はハイテク分野の製造拠点としても主導的な地位を失う」との認識を示したように(2月22日付フィナンシャルタイムズ)、中国で活動している製造企業がこぞって海外へ拠点を移転させる動きを加速させる可能性が高まっている。
「泣き面に蜂」ではないが、中国経済の屋台骨を担ってきた不動産業もかつての輝きを失ったままだ。
政府は規制から支援へと舵を切っているが、その効果を期待するのは早計だ。
1月の家計による住宅ローンの新規借り入れは前年比7割も減少した。政府の指示を踏まえて銀行は住宅ローンを引き下げる対策を講じているが、住宅所有者による既存ローンの早期返済ラッシュを招くだけの結果となっている(2月17日付ロイター)。
1軒目の住宅需要のターゲットである25~34歳人口が既に減少しており、住宅市場の早期回復は見込めないとの指摘もある。
国有企業を優遇して民間企業の経営を圧迫する現象が進んでいることも気になるところだ。2000年代以降の経済成長を支えてきた民間企業の利益が昨年初めて減少に転じたが、3期目入りする習近平指導部の下でこの傾向(国進民退)がさらに強まることが懸念されている。
製造業や不動産業が深刻な苦境に陥っていることをかんがみれば、ゼロコロナ政策を解除した程度で中国経済が急速に回復するとは思えない。むしろ中国政府の失政が相次ぎ、状況がさらに悪化するのではないかとの不安が頭をよぎる。
残念ながら、中国経済のV字回復は期待外れに終わってしまうのではないだろうか。
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