【王将戦第5局】藤井聡太五冠と羽生善治九段の熱戦から見えた「AI至上主義」への憂い

国内 社会

  • ブックマーク

感想戦の魅力

 福崎九段によると、最近の若手棋士は対局後に「あとはパソコンで調べる」と言って感想戦をやらずにさっさと帰ってしまたりすることがあるという。「AIが人間より強くなったといっても、誰の手も借りずに棋士が作り上げた世界を互いに振り返る意義が軽んじられてきた気がして残念です」と福崎九段は語る。

 最近は感想戦もネット中継される。局後の棋士の対話や仕草には引き込まれる魅力がある。勝者と敗者がすぐにその場で対戦内容を振り返る場面など、スポーツだろうが何だろうが勝負事では滅多にない。

「感想戦の後、2人が帰宅してコンピューターで再検討し、そうだったのかと思うこともあるかもしれない。でも、それはそれでいいんですよ」と福崎九段。

 結局、初日の互いの長考の場面で、両雄はAIが示した最善手を選ばなかった。2人は新たな空中戦でパンチを繰り出す。だからこそ面白いのだ。

 異論もあろうが、福崎九段の最近の「AI至上主義」への憂いは、「将棋は人間の戦いだからこそ魅力と価値がある」という揺るぎなき信念から来るものだ。スマホをはじめ最新の情報デバイスに翻弄される人間の在り方を考える意味でも含蓄のある言葉だ。

 さて余談だが、封じ手の封筒や書面は開封後にはどこに保存されるのか。前から気になっていたので福崎九段に尋ねた。

「立会人がもらえるわけではありませんよ。1通は連盟、1通は主催新聞社が保管します。昔はもっといい加減だったけど、藤井さんの封じ手の書なんてすごいプレミアムがついてしまうので、厳重管理になったようです」
(一部、敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。