【王将戦第5局】藤井聡太五冠と羽生善治九段の熱戦から見えた「AI至上主義」への憂い

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 2月25、26日の両日、島根県大田市の「さんべ荘」で将棋の王将戦七番勝負(毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社主催)の第5局が行なわれ、藤井聡太五冠(20)が挑戦者の羽生善治九段(52)を101手で下した。藤井は対戦成績を3勝2敗とし、王将位防衛まであと一つ。通算タイトル100期の偉業を目指す羽生は後がなくなった。第6局は3月11、12日の両日に佐賀県で行われる。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

激しい将棋

 これで両雄の対戦成績は藤井の10勝3敗。レジェンドに10勝したのも藤井が最速だ。

 局後、藤井は「1日目から激しい将棋になって、長考する場面、どうなっていたかわからない局面も多かった」と語った。羽生は「まとめづらい難しい将棋だった。終盤のどこかで間違えた気がします」と振り返った。

 先手の藤井が初手の直前、お茶をこぼすハプニングがあった。羽生は得意の「横歩取り」を選択。序盤から角と飛車が交換される激しい「空中戦」になった。

長考の末、AIの最善手を指さなかった2人

 藤井は41手目に2時間をかけた。昼食休憩前に手番が来ていたので、実質3時間も考えたことになる。

 その手は「4五桂」。藤井の将棋は大胆に桂馬が跳ねる傾向があるが、インターネット配信サービスの「囲碁将棋プレミアム」で解説していた中川大輔八段(54)は「えーっ、すごい。勝ったら勝因の手、負けたら敗因の手かな」と仰天していた。立会人の福崎文吾九段(63)も「このシリーズ一番のびっくり。全然考えもつかない手」と腰を抜かした。

 この時点で、囲碁将棋プレミアムのAI評価は66%と羽生優勢に傾いた。ただしこの数値は、羽生が次の一手をAIが最善手とする「3七歩」と指した時のもの。他の一手を選ぶと、すべて藤井が上回る。

 今度は羽生が2時間の長考に沈む。「うーん」「さーて」などとしきりにため息をついたり、頭を掻いたり、眉間に指を立てたり。藤井の「奇手」に困惑したのだろう。開始直後は10分もしないうちに席を外していた羽生も、この時はほとんど席を外さなかった。

 ところが羽生は、AIが示す最善手ではなく、「2七歩成」とした。これでAI評価は、大差ではないものの藤井優勢となる。

 AIの数値だけから判断すれば、藤井が大長考の末に失敗し、それに幻惑されたのか、続いて長考した羽生もミスをしたように見えた。

 藤井が「仰天の一手」で跳ねた桂馬で「5三桂成」と王手をかけたところで、1日目の封じ手となる。次の48手目は「同角」か「同玉」の2択だが、翌朝、福崎九段が開いた羽生の封じ手は「同玉」だった。これは驚く手ではない。

 羽生は78手目の「5六歩打」で反撃に転じるも、自玉を守った88手目の「5一銀打」あたりで再び劣勢に。角と龍で羽生玉を射程内に置いた藤井は、詰み筋に狙いを定める。

 囲碁将棋プレミアムで解説していた屋敷伸之九段(51)は、「詰まなかったら藤井さんの負けですが、ぎりぎりで詰みそう」と見ていた。藤井が満を持して「4二角成」から手を進めると、羽生玉は守っていた駒を次々と引っ剥がされて丸裸に。持ち駒の豊富な藤井が「5四桂打」で王手。ここからは詰みまで少しかかるが、羽生は頭を下げ、乱戦は決着した。

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