不倫相手との「墓」を買った50歳夫に妻が激昂 「あんたの工場なんか簡単に潰せる」の決定的修羅場
ジョンを思い出すぬくもり
その後、彼はできる限りのことを美香子さん母子にしようと決めた。ふたりが住むアパートを訪ねたこともある。息子を見るなり、彼は笑い出しそうになった。あまりに父親に似ていたからだ。
「美香子さんの口から、僕の知らない父親のこともいろいろ教えてもらいました。彼女と接するときの父はいつも上機嫌で、優しい人だったと。僕の記憶とは違うので興味深かった。僕の下に妹がいたけど死産だった話も、彼女が父から聞いたと教えてくれた。父は彼女には何でも話していたようです」
彼女を訪ねることは自らの子ども時代を振り返ることにもなった。そうこうしているうちに彼は美香子さんに特別な思いを抱いていく。
「あるとき彼女の家に行ってみると、息子が高熱を出しているという。あわてて車で病院に運びました。とりあえず入院させてふたりで彼女のアパートに戻ったんですが、美香子さんはずっと青ざめていて食事もとれない。そんな彼女を放っておけなかった。とにかく落ち着いてもらおうとそうっと抱きしめました。『あったかい』と彼女が言ったとき、僕はまた自分の子ども時代を思い出した。犬のジョンはいつも温かかった。だから気持ちが落ち着いたんです。その話をすると、美香子さんは『かわいそう』と言ってくれて」
自然と抱き合い、自然と結ばれてしまったと秀一さんは言った。そのとき彼の心の中に、美香子さんが父の愛人だったという思いはなかった。
きみに怒る資格はない
その日から10数年、秀一さんは美香子さんとの関係を続けてきた。そして美香子さんに懇願されて、昨年、ふたり用の墓を買ったのだ。
「彼女はがんばって働いてきました。僕にあまり負担をかけたくないと、仕事を掛け持ちしていた時期もある。僕は父の責任をとるために彼女と親しくなったわけではなく、いつしか彼女のいない日常が考えられなくなっていたんです。彼女の息子は僕の義弟になるわけですが、とにかく彼に僕らの関係が悟られないように、ひそかにつきあってきた。それだけに心だけは緊密に結びついていったような気がするんです」
その彼が高校を卒業して専門学校に行くため家を出たのが昨年春。その直後、美香子さんが「自然葬のお墓を共同で買わない?」と言い出したのだ。彼女と自分を結びつける形あるものはまったくない。だから、それもいいのではないかと思ったと彼は言う。
一方でユリさんと秀一さんの関係は、ほとんどビジネスパートナーとなっていた。子どももいないし、ユリさんは「嫁」でいることは相変わらず嫌っていた。だから秀一さんの母が病気になったときも、一度も見舞いには来ていない。彼もそれについてはあきらめていたが、ユリさんのおかげで仕事が広がったこともあり感謝はしている。
「ユリは、他にも仕事をしているので、ここ7、8年は東京とこっちを行ったり来たりしています。お互いに仕事以外では干渉しあわないのが習慣になっていた。それなのにお墓の話はどこから聞いたのか、突然、『あまりにもひどい裏切りだ』と怒鳴られたんですよ。ユリがそう言うのもわかるけど、彼女はもともと夫婦だから一緒の墓に入ろうというタイプでもない。一般的な夫婦のありようを最初から拒否していたのはユリのほうだから、『きみに怒る資格はないんじゃないか』と言ってしまった。それが怒りをさらに燃え上がらせた」
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