不倫相手との「墓」を買った50歳夫に妻が激昂 「あんたの工場なんか簡単に潰せる」の決定的修羅場
知った「我が家の秘密と闇」
就職してからは心機一転、仕事に没頭することを心がけた。同期とは仲がよく、ときどき飲み会を開いたり、休日にキャンプに出かけたりもした。社内に気になる女性ができてつきあったこともあるが、長続きはしなかった。心のどこかにユリさんの存在がどっかり居座っていると彼は自覚していた。
5年がたったころ、突然、ユリさんから連絡があった。学生時代の友だちから連絡先を聞いたという。
「留学と彷徨から帰ってきたよと軽い感じで言っていました。早速、会ったんですが、なんだかたくましくなってましたね。お嬢だった面影はあまりなくて、きりっとした顔になってた。どうやらけっこうちゃんと勉強していたようでした」
その後は大学院で研究しながら、アルバイトでもするわとユリさんはほがらかに言った。食事をしてから外へ出ると、ユリさんは「今日、泊めてくれる?」とさらり。秀一さんはどぎまぎし、改めてユリさんに対して強烈な欲求をもっているとわかった。
「それからは半同棲という感じでした。ところがある日、母親から連絡があって、父が倒れたと。当時、父は60代前半でした。あわてて実家に帰ると、母は怒ったような顔で座っていた。『お父さん、意識がないままなの。お義父さんが工場で働いてくれてる』と。祖父母は90歳前後だったと思うんですが、ふたりとも元気で。家の雰囲気は相変わらず妙な感じでしたが、実は父親、愛人宅で倒れたんだとあとから聞きました。父に愛人がいたことも知らなかったし、それを母が知っていたことにも驚いたし。我が家の秘密と闇が、父の入院で一気に噴出したわけです」
父の愛人というのが、30歳近く年下の美香子さんだった。元は工場で働いていた女性だったが、父が見初めて工場をやめさせ、マンションに住まわせていたのだという。関係は10年近く続いており、美香子さんには父の子もいると聞かされた。
「ちょうど僕が大学入学で家を離れたのと、父と女性との関係が始まったのが同じ頃なんです。息子がいなくなったから、もう自由にしてもいいと思ったのかな。祖父母はその件を知っていたけど母には言わなかった。母が知ったのは工場で働く別の女性からの密告だったようです。でも母は、父に文句を言う気にもなれなかった、と。祖父母はそんな母を気遣っていたようですね」
父はときおり深夜に帰宅していたようだが、母がそれを責めることもなかった。母は淡々と一家の主婦をこなし、なにごとも起こっていないように振る舞っていた。
「結局、父は意識を取り戻すことはないまま1ヶ月後に息を引き取りました。工場は祖父が自らやると言い張った。僕はこんな日が来るのではないかと心のどこかで思っていた。職人さんたちにはかわいがってもらった記憶もあるし、みんな長く勤めてくれている。家族もいるし工場を潰すわけにはいかない。大学で学んだことも活かせる仕事ではあったので、工場を継ごうかなとつぶやくと、祖父がすごい勢いで食いついてきた。『秀ちゃん、それがいい、それがいい』って」
秀一さんは1ヶ月ほど、とことん考えた。そして継ぐ決断をした。ユリさんに話すと、「私も行く」と言い出した。結婚するということかと尋ねると「婚姻届なんて出さなくてもいいじゃない」という答えが返ってきた。
「ユリは留学を経て、考え方が本当に変わった。もともと僕にかまうくらいだから少し変わったところはあったんでしょうけど。僕もひとりで帰るよりはユリがいたほうがいいかなと思って、ふたりで僕の実家に行くことにしました。友人たちを呼んでパーティをしたけど、結婚というわけではなく、ふたりで僕の実家を継ぐことになったとわけのわからない説明をするしかなかった」
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