私が「障がい者の性介助サービス」を始めた理由…「輝き製作所」所長・小西理恵さんが語る

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介護の勉強、そして専門風俗店へ

 そして、介護の勉強の一環で訪れた知的障がい者のグループホームで、またも転機が訪れる。統合失調症の入所者が「何をしても楽しくない」とこぼしていると、ホームの支援者から聞いたのだ。

 自身が夜の世界にいたこともあって、小西さんは「女の子と遊んだらあかんのかな」と思ったという。ところが改めてインターネットで調べると、障がい者の性のケア事情があまりに乏しいことがわかった。そこで小西さんははじめて現実を知ることになる。

「障がい者にまつわる支援も、たとえば家事などの支援はあっても、性に関しての扱いは、言ってしまえばスポーツと同じ。『余暇』であり、個々人がご自由にどうぞ、という姿勢だったんです」

 大阪に一軒、障がい者専門の風俗店があるのを知った。まずは現場を知ろうと、小西さんは介護士の道からは外れ、その店で働き始める決心をした。自身に風俗勤務の経験があり、かつ、問題意識を抱いた彼女ならではの選択といえるだろう。

 はじめて接客したお客さんは、事故による中途障がい者だった。これまでの店での接客と違いはあったのだろうか。

「いえ『普通の男の人やん』って思いました。車椅子でしたし、自分で射精はできない身体だったのですが。『なんで来てくれるの?』って聞いたら『女の子の裸見ているの楽しいし』って。そりゃそうだよな、と気づかされました」

いま悩んでいるお母さんが世の中におるやん

 その後、小西さんは下半身マヒや筋ジストロフィーなど、さまざまな障がいを抱えるお客と出会った。たとえ同じ症名でも、その度合いはひとりひとりで異なる。マニュアル化はできない難しさがあったことだろう。

「『初めて生身の女性の体を触った』とおっしゃる方や、射精ができなくても、わたしに触れて『自分はまだ男なんだ』とアイデンティティを確認される方もいました」

 自慰行為ができず、入浴の際のシャワーの刺激で何とか欲求を満たす、という話も聞いた。関係者や客を通じて、これまで知らなかった世界を学んだ。

「ただそのお店も、自分で予約をとることができる身体障がい者の方がメインで、知的障がい者の方は利用が難しかった。これはどうにかせなあかん、と思いましたね。またこの頃、近親相姦の話を聞いたんです。『性犯罪を起こすよりは』と母親が知的障がい者の息子さんと行為に及び、妊娠してしまったという……。絶対、いま悩んでいるお母さんが世の中におるやん、と」

 私も障がい者と性にまつわるNPO法人で理事をしているから、近親相姦の問題は私もいくつも聞いている。私が聞いたのは、ある日、とつぜん夢精をしてしまいパニックになったことをきっかけに、母親が相手をするように……という話だ。ただでさえ、親族は障がい者本人の存在を隠したがることが少なくない。それが性欲問題であればなおのこと、内々で済ませようと考えるのだろう。これも小西さんのような存在が認知されていない、知っていても利用することが「恥」と思ってしまう問題が背後にある。

「この経験をつうじて、風俗と福祉、両方の経験のある私にできることはないかと考え、『輝き製作所』を立ち上げたのです。サービスを利用された方のご家族には『助けてほしいと、もっと(早く)言えばよかった』とおっしゃる方もいました。ほんとうは私のような障がい者専門の風俗に頼らなくても、どこのお店にも普通に気軽に行ける社会になったらいいのですけれどね」

酒井あゆみ(さかい・あゆみ)
福島県生まれ。上京後、18歳で夜の世界に入り、様々な業種を経験。23歳で引退し、作家に。近著に『東京女子サバイバル・ライフ 大不況を生き延びる女たち』(コスミック出版)。主な著作に『売る男、買う女』(新潮社)、『東電OL禁断の25時』(ザマサダ)など。Twitter:@muchiuna

デイリー新潮編集部

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