「長生き」が最大のリスク? 豊かな老後に必要な月給10万円の「小さな仕事」

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過去と同じ仕事にこだわらない

 一方、そうはいっても60代後半、70代になってもまだ雇用してくれるような会社があるのかと疑問に思う方もいるかもしれません。

 総務省の「国勢調査」から年齢別の職種分布を分析すると、事務職などのデスクワークは50代後半以降、割合をぐんと落としています。しかし反対に、例えば農林漁業、運搬・清掃・包装等、サービス、輸送などの現場仕事は高齢期にその割合を伸ばしています。

 つまり、定年後はいまある仕事の選択肢に対して先入観を持たずに向き合っていく必要がある。過去と同じ仕事にこだわっていてはうまくいかないこともあるからです。

 このことは有効求人倍率をみても明らかです。一般事務の有効求人倍率が0.29倍と1を大きく割り込んでいるのに対し、飲食物調理や接客、販売、保安、自動車運転、運搬・清掃・包装等などの現場仕事は有効求人数も有効求人倍率も高いまま推移しています。「国勢調査」を見ると、高齢労働者の占める割合が高く、企業側が多くの高齢者を受け入れている仕事はたくさんあることに気付きます。気になる人は、シルバー人材センターやハローワークをのぞいてみてはいかがでしょうか。

現役時代より仕事に満足している高齢者

 もしかすると、働く業種を変えることにネガティブな印象を抱く人もいるかもしれません。ただ、実際に働いている高齢者は自分の仕事に満足し、幸福を感じている人が多いことも分かっています。

 リクルートワークス研究所の調査によれば、仕事に対して意義を感じるかどうかは50代で底を打つU字カーブを描いており、多くの高齢者が現役時代より仕事に満足していることがうかがえます。これは、役職定年などの制度によって定年まで管理職のポストに就き続けられる人が減り、高い地位や報酬を求めるといった就労観が50代を境に変化することが影響しているのでしょう。

 定年後の「小さな仕事」がうまくいくかどうかは、この価値観の転換を受け入れることから始まると言っても過言ではありません。仕事の負荷を下げ、ストレスから解放された先に豊かな老後が待っているのです。

坂本貴志(さかもとたかし)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト。1985年生まれ。一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「月例経済報告」の作成や「経済財政白書」の執筆を担当。その後、三菱総合研究所を経て現職。

週刊新潮 2023年2月23日号掲載

特別読物「『長生き』が最大のリスク!? データが導く現実とは 『定年後』を幸福にするカギは『小さな仕事』」より

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