「大人になったら一緒にお酒も飲もう」と約束したのに… 和楽器バンド・いぶくろ聖志を世界の舞台に導いた“恩師”との思い出
「大人になったら一緒にお酒も飲もう」と約束した校長が…
3年生の夏、箏曲部は日本一の称号を手にすることができた。校長とは「大人になったらまた集まって一緒にお酒も飲もう」と約束した。箏に触れてから約2年の経験しかなかった私が、少しずつでも演奏を仕事として始めることができたのは、積み重ねた毎朝の練習があったからだと思っている。
お酒が飲めるようになった私の元に校長の訃報が届いた。葬儀ではおえつが止まらずトイレへ避難した。参列した他の学校関係者はそんな私を不可解な目で見ていたが、私にとっては2年間毎朝支えてくれた仲間であり、自分の人生の基盤を作るのを見守ってくれていた恩師だった。それなのに「いつでも会える」と思い約束を果たせなかった自分のうかつさが堪らなく悲しかった。校長の訃報から10年以上が経った。大人になればなるほど、校長の年齢に近づけば近づくほど、毎朝誰かのために時間を確保する難しさを実感して感謝の念が湧いてくる。
毎朝7時30分に校門に立ち続けた日々が、武道館や世界の舞台に立つ日々となる。人生は退屈な日常の向こうで、気付くと劇的に変化している。校長に演奏を聞かせることがかなわないのは残念だが、誰かの日常を支えられる存在でいたいと、一人グラスを傾けながら恩師の姿を追う。
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