「認知症の母からもらった“贈り物”が」「ボケた父に感じた“哲学”」 表現者二人が体験した介護のリアル 高橋秀実×信友直子

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認知症の自撮り映画

高橋 今もお父さんを撮っているんですか?

信友 はい。父は今102歳。母が亡くなった後も、自宅に一人で暮らしています。父は「120歳まで生きるぞ」と張り切っているんです。今でも「ココス」の濃厚ビーフシチューの包み焼きハンバーグを平らげる。だから、全然死ぬ気がしないんですけど、さすがにあと20年はないだろうと思うと、限りある時間を父と過ごした方がいいかなと思って、ちょくちょく呉には帰るようにしています。

高橋 お父さん、認知症的なところはないんですか。

信友 まったくない。私より物覚えがいいぐらい。逆に、私が将来、認知症になるんじゃないかと怖い。

高橋 怖いんですか?

信友 でも、認知症になったら自撮りして、第3弾の映画を撮ろうと考えると、少し気が楽になりました。たぶん認知症の人が自撮りした映画って、今までないんです。制作発表の時に、私が舞台あいさつで何と言うかが今から楽しみ。

高橋 自撮りするんですか。

信友 その映画に、独白は絶対入れようと思っているんです。私が今どんなことに、恐怖を抱いているかとか。本当に認知症になったら、やっぱりショックでしょうね。でも、そこでへこんでも治るわけじゃないから、もう撮るしかない。高橋さんは、認知症になることが怖くないですか?

高橋 妻を失うことのほうが怖いです。多かれ少なかれ今の自分は認知症だと思っているんで。認知症でも生きていけますけど、妻がいなかったら生きていけませんから。

信友 それは奥様への最大のラブレターですね(笑)。

信友直子(のぶともなおこ)
映像作家。1961年広島県生まれ。東京大学文学部卒。2009年、自らの乳がんの闘病記録である『おっぱいと東京タワー~私の乳がん日記』でニューヨークフェスティバル銀賞などを受賞。18年には初の劇場公開作『ぼけますから、よろしくお願いします。』を発表、文化庁映画賞・文化記録映画大賞などを受賞。

高橋秀実(たかはしひでみね)
ノンフィクション作家。1961年神奈川県生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科卒。テレビ番組制作会社を経て、ノンフィクション作家に。『ご先祖様はどちら様』で第10回小林秀雄賞、『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』で第23回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。他の著作に『からくり民主主義』『はい、泳げません』『定年入門』『道徳教室』など。

週刊新潮 2023年2月23日号掲載

「『おやじはニーチェ』刊行対談 親が認知症! その時どう向き合うか!? 表現者2人が体験した『介護のリアル』」より

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