「認知症の母からもらった“贈り物”が」「ボケた父に感じた“哲学”」 表現者二人が体験した介護のリアル 高橋秀実×信友直子

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ナチュラルボーン認知症

高橋 自立って何なんでしょうね。一人暮らしができないっていう意味では、父は昔からずっと認知症だったんですよ。

信友 確かに認知症の定義に当てはめたら、お父様は前から認知症ですね。

高橋 「ナチュラルボーン認知症」。

信友 そう考えたら、うちの父も、母が認知症になるまでは「ナチュラルボーン認知症」だったかも(笑)。何にもやってなかったですから。でも、母が認知症になって、できなくなったことを父が肩代わりした。

高橋 それはすごい。

信友 おそらく父は割と好奇心があって、もともと家事をやりたい人だったんですよ。だけど、母は「自分の城に入らないで」という性格。プライドも高いし、やらせてもらえなかった。でも、やってみたら案外できた。聞けば、兵隊の頃、陸軍では身の回りのことは全部自分でやらないと上官に殴られたみたい。

高橋 体で覚えていたんですね。

信友 そう。掃除、洗濯、繕い物、飯炊きも。

高橋 うちの父は軍隊に行ってないから。

認知症からもらった贈り物

信友 高橋さんって、もし今、奥さんがいなくなったら、一人で暮らせます?

高橋 いや、絶対無理です。たぶん父みたいになると思います。

信友 その答えを期待して聞いてみた(笑)。

高橋 さっきの引力と斥力じゃないけど、実は今、妻が入院していまして、私、家の中で転びました。体のバランスが狂って、まっすぐ歩けなかったんです。

信友 奥さんがいなくなったから?

高橋 彼女がいることでバランスを保っていたのに、いなくなった途端、自分自身を支えられなくなった。つまりは一心同体なんです。

信友 私はこうなる前、ある意味で父にまったく興味がなかった。母が認知症になって初めて、父がこんな人だったんだと知った。その発見は、本にも書きましたけど、「認知症からもらった贈り物」だと思っています。

高橋 認知症に救われたわけですね。

信友 そう思わないとやってられないと思ったんです。母のことがすごく好きで、その母を日々喪失しつつあった。そうした悲しみだけだったら、すごく悔しいなと。なんかいいこと探さなきゃと思って、無理やり見つけた感じです。実は最初にテレビで両親のことを放送した時、「信友のお父さんみたいな人と結婚したい」と言われて驚きました。それまで父の良さがわかっていなかったんですよ。人に言われて初めて気付いた。

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