「認知症の母からもらった“贈り物”が」「ボケた父に感じた“哲学”」 表現者二人が体験した介護のリアル 高橋秀実×信友直子

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「認知症だと伝えると母がキレて…」

信友 私は「母に隠し事をしないほうがいいだろう」と思って「お母さんは認知症なんよ」と告知したら、キレて暴れられたという苦い経験をしました。高橋さんは、お父さまに認知症だとはっきり伝えたんですか。

高橋 父に「認知症って知ってる?」と聞いたら、「知ってるよ。ボケるんだろ」とあっさり。ボケているという自覚はあるが、認知症の自覚はない。認知症って本質的に周囲が判断することでしょう。判断する主体が違うわけで、周囲の判断を受け入れるか否かの問題だと思うんです。信友さんのお母さんみたいに、家事もちゃんとやる、お金のこともできる方が、できなくなっていると気付くというのは、ご本人にとってはショックでしょうね。

信友 本人はすごくつらかったと思うんですよね。だからできない理由がわかれば救われるかもと思って「認知症になったから仕方ないんよ。でも私らが支えるけん心配せんでね」と告知したわけですが、それはそれでショックだったようで。

「死にたいけん、包丁持ってきてくれ!」

高橋 うちの父はもともとできませんから。仕事以外のことはすべて母任せ。家のことは何もできないということが母の死によって露呈したにすぎないんです。私はこれを「家父長制型認知症」と呼んでいます。例えば食事も「食卓に座る」ことだと思っている。座っているのに何も出てこないと、なんかヘンだぞ、と首をかしげたりして。信友さんのお母さんとはまったく別のタイプの認知症ではないでしょうか。

信友 うちの母は、家族の面倒をみるのが生きがいでしたから、家族の役に立たなくなって逆に面倒をかけてしまっている自分が許せなかったんだと思います。「私は死んじゃる!」と暴れたこともありました。「死にたいけん、包丁持ってきてくれ!」。そう言われた時は、底無し沼にハマっていくような衝撃でした。だから必死に想像しました。なんで母はこう考え、これを言ったのかと。取材と一緒です。なんでこの人はこういうことをするんだろう、こういうこと言うんだろうと考える。理屈がわかると、自分が傷つかないで済む。「逃げ」じゃないけど、そういう行動はとっていました。

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