「認知症の母からもらった“贈り物”が」「ボケた父に感じた“哲学”」 表現者二人が体験した介護のリアル 高橋秀実×信友直子

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 ノンフィクション作家・高橋秀実氏の『おやじはニーチェ』が刊行された。認知症の父親の発言に対して哲学的な解釈を試みるという今までにない介護記録だ。同じく認知症の母を撮影してきた映像作家・信友直子氏との対談からは、表現者ならではの視点が見えてくる。

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〈母が突然この世を去り、還暦間近の息子が横浜の実家で父親を介護せざるをえなくなる――ノンフィクション作家の高橋秀実さんが自らの実体験を記した『おやじはニーチェ 認知症の父と過ごした436日』(新潮社)が刊行された。認知症の母親の様子をドキュメンタリー映画として撮影した映像作家の信友直子さんと共に、表現者として認知症の親とどう向き合ってきたのかについて語ってもらった。〉

観察者として撮ると名シーンに

信友 ご本、面白かったです。87歳のお父さまに対してはじめから取材のようにして接していたんですか。

高橋 いえいえ、普通に会話していました。いら立つんですよ、これが。言い間違いや聞き間違いが多いし。

信友 子供として向き合っているとイライラしますよね。

高橋 わけのわからないことばかり言っていると思っていたのですが、ある時妻に「メモしていないの?」と聞かれまして。そうかメモすればいいのか、と思い立ったんです。それから毎日取材のようにノートを広げて書き取るようになりました。

信友 そうなんですね。

高橋 自分の質問も書きます。例えば「100引く7は?」と書きながら父に聞く。すると父に「じかに?」と聞き返されたので、「じかに?」と一字一句正確に書く。メモしていなかったら、あきれるだけのやりとりですが、文字に起こすと、「じかに」という考え方もあるのかと気付かされる。

信友 書き残していると、後でこういうことだったのかと考えられますからね。私も一緒。カメラを回していると、後から見直してわかることがあった。

高橋 こう言ってはなんですが、悲しい場面でも観察者として撮っていると、名シーンになったり?

信友 そうなんです。

高橋 もうひと暴れお願いします、みたいな(笑)。

信友 ええ。

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