来春の朝ドラヒロイン「伊藤沙莉」が語った“アルバイト時代” 「“ニート”の時期が長かったんです」

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ヒロイン起用の決め手となった作品は?

 NHKが伊藤を朝ドラのヒロインに選定する決め手となったと思われる作品がある。やはり深夜帯で単発作品だったが、伊藤にとってNHK初主演作「ももさんと7人のパパゲーノ」(昨年8月20日)だ。伊藤の演技は評判高く、ドラマ界で屈指の栄誉である2022年度文化庁芸術祭の放送個人賞を獲った。

 物語はOL・もも(伊藤)の「しんでー(しんどい)」との言葉から始まる。パパゲーノとは、死にたい思いを抱えながら、生き抜く人。ももはパパゲーノで、オーバードーズや自傷行為を繰り返してきた。

 ももはその後、やはりパパゲーノの7人と出会う。それにより「死にたい」と思いを持ちつつも生きていこうと決意する。ももが笑顔の下に隠している絶望を表現しなくてはならない難役だったが、伊藤はごく自然に演じた。説得力のある演技だった。

 制作統括は「虎に翼」と同じ尾崎裕和氏だった。このドラマの成功によって、伊藤なら朝ドラのヒロインも十分務まると踏んだのだろう。

 現在はマクドナルド、ダイハツなどのCMに出演中。人気の表れだ。もっとも、本人は至って冷静である。

「人気者だと思ったことはないんです。自分に対してプラスの意見を持ってくれている人が増えているとしたら、減るのが怖いですね。SNS時代ですから、(プラスとマイナスが)引っ繰り返るのなんて、あっと言う間です。人気もイメージも高いところに上がるほど、落ちてしまったときの傷が深いと思います。ずっと同じ位置にいられたらいいと思うんですけれどね」

 苦労人らしい言葉だ。目標は「私が死んだ時、誰か1人でもいいから、『共演したかった』と思ってもらえる女優になること」だという。伊藤自身は2018年に他界した故・樹木希林との仕事を切望していた。

「共演させていただくのが夢だったんですが、実現する前に樹木さんはお亡くなりになってしまいました。訃報に接したとき、地方ロケでホテルの部屋にいたのですが、メチャクチャ泣きました。落ち込みました。人前でなくて良かったと思います」

 女優スピリットが強い。かつては朝ドラのヒロインを務めると、撮影とリハーサル以外ではぐったりしたままと言われたが、伊藤なら平気だろう。

「虎に翼」のヒロインのモデルは、日本初の女性弁護士・三淵嘉子さん。1914年に生まれ、明治大学専門部(夜間過程)の女子部法科を卒業後、現在の司法試験である高等文官試験司法科に合格した。

 戦後はそれまで女性がいなかった裁判官を目指し、採用願 を司法省に提出。すぐには任用されなかったものの、1949年には願いがかなって女性初の裁判官となった。チャレンジ精神旺盛な伊藤自身と共通点が見出せる役柄だ。

 4月からは仲の良い実兄であるオズワルドの伊藤俊介(33)が、32年ぶりに復活するフジの伝説的深夜バラエティ「オールナイトフジ」のMCを務める。伊藤兄妹に一足早く春が訪れた。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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