「おつとめ品」を買うのを恥ずかしがる人たち 「食品ロス削減シール」に変える会社も(中川淳一郎)

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 恥の多い人生を送ってきました。しかしながら、世間一般が抱く恥の概念ってものに対する恥じらいは持っていません。

 2月6日、ユニーは同社が運営するスーパーで食品の値引きシールのデザインを変更すると発表。これまで赤いシールで「おつとめ品」と書かれて割引率が示されていたのを、緑色の「食品ロス削減 売り尽くし価格」に変更するというのです。

 理由は、食品ロス削減を目指すことに加え「赤い『おつとめ品』シールのついた商品を買うのは恥ずかしい」という声もあるらしい。いや、私なぞ「50%OFF」やら「半額!」なんてシール貼ってあったら「どや、ワシはトクする商品をGETできたんだぜ、ざまぁみろ!」と誇らしい気持ちになるのですが、恥ずかしい人も一定数いるようですね。

 しかし「『赤』と『緑』」「『おつとめ品』と『売り尽くし価格』」の違いってそんなにあるの? いずれにしても割引シールなわけで、そんなに恥ずかしさが除去されるものだろうか……。

 恐らく「食品ロス削減」という大義名分が今回の改訂のキモだと思うのですが、どちらも「安いものを買っている」ことには変わりがない。だったら恥ずかしさに違いはないのでは、とも思うわけですよ。しかし、多くの日本人にとっては大義名分が与えられれば恥ずかしさが減少するみたいですね。

 まぁ、日本語って、ドギツイ表現を避け、なんとなく美しい言葉に変換するのはお家芸ですよね。「援助交際(実際は『売春』)」「万引き(実際は窃盗)」「思いやり予算(実際はただ単に米軍に貢いでるだけ)」などがある。

 さらには会社員にとってはただの「退社」で、アイドルユニットにおいては「脱退」なのに「卒業」と言い出した。あのさ、なんでここまでオブラートに包むような言い換えをするんだよ。表面的にキレイな言葉だったらいいってか? 英語でも当然こうした言い換えはしますが、皮肉交じりでした。

 私がアメリカの高校3年生だった1992年、世界史の教員はなぜか「暴れるバカ生徒」の保護者と面談する際、そのように呼ぶのは良くない、と授業中、突然言い出しました。「みんな、オレがなんと言うか分かるかい?」と彼は言います。誰も正答できなかったので彼は自ら答えを言いました。

〈I say “your child is hyper active. You know what it means?”〉(オレは「あなたのお子さんはハイパー行動的ですね。この意味分かりますよね?」と言うんだよ)とのことです。私はこの時、アメリカ人でもこうした遠回しの言い換えをすることを知りました。しかし、その後で「字面通りに受け取るな」とくぎを刺すのを忘れないことに「大したものだ」と思ったものです。

 翻って日本。国会では「卒業式でマスク着用をどうするか?」という自主性もクソもないバカな議論を続けました。食品シールについても「SDGsの観点から、食品の割引シールは『おつとめ品』や『50%OFF』ではなく『食品ロス削減 売り尽くし価格』に変更するべきでは」といった議論が発生するのでしょうか。やめてくれ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年2月23日号掲載

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