【100万回 言えばよかった】直木は誰に殺害されたのか、その動機は?

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直木は誰が、なぜ殺したのか

 それでは直木を殺したのは誰か。魚住は手口などから涼香殺しとは犯人が別と見ている。

 最も怪しいのは視聴者の多くが考える通り、池澤英介(荒川良々[49])である。直木がシェフをしていた「ハチドリ」のオーナーで、学習塾も経営している。

 英介にはもともと不審な点があった。英介は「ハチドリ」で月1回、子供食堂もやっているが、それを知った篤志家の広田は「英介君がそっちの方向に行くとは思わなかったよ」と、意外そうに言った(第2話)。英介の過去は誇らしいものではないようだ。

 直木が死の直前に電話で話した相手も英介である。英介は直木の殺害現場となった広田宅の場所も知っている。

 さらに気になるのは英介と千代には共通点があるところ。どちらも子供相手の仕事をしている。2人は一見、子供の良き理解者。もっとも、千代の実像は少女を食い物にするクズである。

 英介のほうはどうなのか。ひょっとしたら英介も過去、少女売春に関与しており、その罪滅ぼしのために子供相手の仕事を始めたのかも知れない。逆に、まだ千代とつながっていて、子供を利用した悪事を続けている可能性もある。

 おそらく、莉桜は英介が何者なのかを知っている。だから英介は直木と莉桜が20年ぶりに再会することを嫌がり、それが直木刺殺事件の悲劇を招いたのではないか。

 少なくとも直木が死の前、莉桜と会ったのは間違いない。直木が預かっていた500万円が、今は莉桜の手元にあるからだ。

 この作品はラブストーリー、サスペンス、ファンタジーでありながら、不遇な子供たちが次々と登場する。直木は母親から、難病の弟に骨髄を提供するドナーとしか見られていなかった。父親からは疎まれていた。

 英介の子供食堂にはネグレクト(養育放棄)気味の子供がやって来る。少女たちは千代によって金儲けを目的とする性的虐待を受けているようだ。

 いずれもドラマの中だけの世界ではない。少子化対策が喫緊の課題とされながら、この国は子供たちにとって快適とは言い難い。脚本を書いている安達奈緒子氏は、「生と死」、「愛の本質」、「悠依の喪失と再生」をストーリーの縦軸にしつつ、子供たちに対する大人の責任を静かに問い掛けている。

 第6話終了時点では読み解くのが難しい存在が、2月21日から登場した黒い衣服の女性幽霊(菊地凛子[42])。この幽霊が近づくと、魚住は寒気が走ることから、幽霊というより死神に近い存在なのかも知れない。魚住はこのまま直木と一緒にいると、死ぬ恐れがあるからだ。

 この作品は放送開始日の1月13日という設定から始まった。直木の死んだ日だ。3月中旬と見込まれる最終回の日付に合わせて、悠依と直木、魚住による冬のファンタジーも幕を閉じるのだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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