「荒木2世」の呼び声も…“小兵ルーキー”田中幹也は新生「立浪中日」の象徴になるか

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「個人の力がないと、試合には出られない」

 これらの欠点を解消するための「右足を内に入れない」「左足の着地を我慢」「左足を強く着かずにスピードを殺さない」という連立方程式の解を探るために、その“緩い特守”を連日行っているというわけだ。

「そこ、難しいんですけどね。うまい人は、バウンドが合わなくても、ボールが吸い込まれるようになるんです。でも自分はまだ、合わないときには手足でカバーしてしまっているんです」

 その弱点を自覚しながらも、田中の動きは実に光っている。

 シート打撃でスタンドから拍手が沸いたシーンも、遊撃前の緩いゴロに対し、すばやく前進して捕球すると、ジャンピングスローで一塁へストライク送球を見せた。一連の、流れるような動きには「さすが」と思わせるだけのものがある。

 阿部、京田がいなくなった内野陣は、一塁のビシエドを除けば、それこそ3ポジションが未定の状態だ。立浪監督は田中、村松、龍空を二塁、遊撃にあてはめていく方針を固めているようで「田中は二塁も遊撃も両方できますからね」と両にらみであることも示唆した。

 田中は打撃でもしぶとさを見せており、2月5日のシート打撃では“プロ実戦初打席”でいきなりレフトオーバーの二塁打を放ち「パッと打ってビックリした」と立浪監督。思わず田中に対して「長打は期待していないぞ」と笑いながら語りかけるシーンもあった。

「体は小さいけど、ミート力もある。彼に求めるのは、何でもできること。プロに対応することです」と立浪監督。背番号「2」はかつての荒木コーチの背番号だ。守って、しぶとくつなぐ打撃といえば、それこそ「荒木2世」の働きが、期待される田中の未来像だろう。

「個人の力がないと、試合には出られない。自分がうまくなることを考えなくてはいけない」という負けん気もプロ向き。最下位からの巻き返しを誓い、生まれ変わろうとしている立浪ドラゴンズの“象徴”になる可能性が大だ。

喜瀬雅則(きせ・まさのり)
1967年、神戸市生まれ。スポーツライター。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当として阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の各担当を歴任。産経夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。産経新聞社退社後の2017年8月からは、業務委託契約を結ぶ西日本新聞社を中心にプロ野球界の取材を続けている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)、「不登校からメジャーへ」(光文社新書)、「ホークス3軍はなぜ成功したのか」(光文社新書)、「稼ぐ!プロ野球」(PHPビジネス新書)、「オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年」(光文社新書)。

デイリー新潮編集部

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