徴用工問題で“速度戦”に失敗した尹錫悦 アベ不在…それでもキシダは騙されるのか
「慰安婦」「徴用工」は聞き飽きた
韓国が対中包囲網に加わらない言い訳に「日本が謝罪しない」ことを持ちだすのにもバイデン氏は怒っています。2013年12月6日、バイデン副大統領は朴槿恵大統領の前で「本当は中国が怖いからだろう」と看破してみせました(『米韓同盟消滅』第3章第3節「墓穴を掘っても『告げ口』は止まらない」参照)。
だから2021年1月にバイデン政権が発足すると、直ちに韓国に対し「慰安婦や徴用工を理由に日本と対立を続けるのなら、同盟を打ち切るぞ」と脅したのです。
東亜日報がバイデン政権の匿名の韓国担当者の発言として報じました。「『最悪に突き進む韓日関係に』…米『韓国に対する期待を放棄するかも』と圧迫」(2021年2月10日、韓国語版)です。
歴史問題では韓国の肩を持っていた米国の姿勢が明らかに変わったのです(『韓国民主政治の自壊』第3章第2節「『慰安婦を言い続けるなら見捨てる』と叱った米国」参照)。
日韓関係が改善しない時に怒られるのは、日本ではなく韓国となったのです。米国との関係を修復したい保守の尹錫悦政権は、日本との関係改善に嫌でも動かざるを得ない。それも、慰安婦やら「徴用工」といった歴史カードを使わずに、です。
譲歩に見せかけた新たな罠
――そんな状況下で、韓国は日本を騙せるのでしょうか?
鈴置:騙せると思います。最近、一見譲歩するかに見せかけて日本を罠にはめる手口が浮上しています。日本政府が改めて謝罪声明を出さずとも、過去の談話や声明を「継承する」と表明することで「謝罪した」ことにするやり方です。
具体的には1995年の村山談話か、1998年の小渕・金大中宣言を「なぞる」方法が検討されています。日本政府が出した案と報じられていますが、韓国が水面下で持ちかけた案を「日本案」として公表した可能性もあります。
ポイントは2月6日、朴振長官が国会でそれを受け入れる、と表明したことです。聯合ニュースの「韓国外相 98年宣言に初言及=徴用問題巡る日本の謝罪で」(2月6日、日本語版)が伝えました。
日本の外務省はすでに「この案ならいい」と日本のメディアに漏らしていますから、「謝罪」は決着し、後は「賠償」に焦点が移ることになります。外交当局間の交渉ベースでは、という話ですが。
――「談話継承」案の何が問題なのでしょうか?
鈴置:「日本はちゃんと謝っていない」と蒸し返されることが目に見えているからです。いわゆる村山談話――「戦後50周年の終戦記念日にあたって」は主に戦争責任を反省したものです。植民地支配に関しては一言触れただけで「徴用」には一切、言及していません。
植民地支配も徴用も合法だったとする日本からすれば当然ですが、韓国側からは不満が噴出するでしょう。左派だけではありません。
駐日韓国大使を歴任した申珏秀(シン・ガクス)氏が東亜日報の「[パワー・インタビュー]徴用問題を解く最後の機会…尹訪日を意識して急ぐな」(2月7日、韓国語版)で「村山談話を繰り返す、確認するということではいけない。この事案に合わせて新たな文案を作るべきだ」と主張しています。
――それなら、1998年の小渕・金大中宣言を継承したら?
鈴置:それもひっくり返されるでしょう。この宣言――正式には「日韓共同宣言――21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」に対しては、韓国の国会が2001年7月、日本の「教科書歪曲」の非難決議を全会一致で採択した際に、破棄を検討するよう政府に求めました。
法的に無効になったわけではありませんが、「国会が疑問符を付けた宣言をいくら日本が継承しても、謝罪の意思を示したことにはならない」と言い出す人が必ず出てくるでしょう。
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