徴用工問題で“速度戦”に失敗した尹錫悦 アベ不在…それでもキシダは騙されるのか
国際司法裁判所では勝てぬ
――尹錫悦政権も判決が違法と認識しているのですか?
鈴置:1月12日、韓国政府は解決案を決める儀式として「徴用工」問題を話し合う討論会を開きました。この場で李元徳教授は以下のように語りました。
・[3つある解決法の1つは]請求権協定第3条の紛争解決条項である。異見がある時は仲裁委員会を構成することになる。さもなければ国際司法裁判所に共同で提訴する手法もある。これらは時間がかかるうえ、結果を楽観できない。
「判決が違法だ」と言い切っていませんが、「国際社会で争えば勝てそうにない」ことは認めています。2018年に最高裁判決が出た後、日本政府が第3条を使って仲裁委員会を持とうと提案した時に、韓国政府は――当時は文在寅(ムン・ジェイン)政権でしたが、無視しました。「勝てない」と判断したからでしょう。
李元徳教授が典型ですが、「出るところに出たら勝てない」と分かっているからこそ、「キシダの政治的決断」を迫るのです。
「現金化」のペテン
――もともと、無理筋の作戦なのですね。
鈴置:だから尹錫悦政権は「解決を急がないと大変なことになる」とのプロパガンダを繰り広げてきました。まずは「最高裁で勝訴した原告が、日本企業の財産を現金化したら日本政府は対抗措置を採るから大変なことになる」との理屈でした。
でも「現金化阻止」という宣伝も時間と共に馬脚を現しました。一向に現金化されないからです。「外交部が最高裁に対し現金化を留保するよう求めた」と尹錫悦政権は手柄顔で説明しますが、文在寅政権の時から現金化は実行されていませんでした。
原告を支援する左派団体の狙いは財団を作って日本にカネを出させ、自分たちの財布にすることです。現金化したら、その目論みが一気に崩れてしまいます。そこで支援団体は日本企業の資産を差し押さえる際、合弁子会社の株式など、現金化しにくいものばかり選んだのです。
――それでも韓国は「関係改善を急がないと大変なことになる」と日本に言い続ける……。
鈴置:それしか手がないからです。日本研究者の朴喆煕(パク・チョルヒ)ソウル大学教授は「現金化に向けた手続きは一時的に止まっているだけだ」と、手あかの付いた理屈を未だに持ちだして日本の譲歩を誘っています。毎日新聞のインタビュー記事「尹政権、求心力あるうちに」(2月14日)で読めます。
先ほど説明したように、現金化した際「出るところに出れば」韓国が泣くことになるのは確実ですが、韓国側はそれをひた隠しにして議論を進めるのです。
大和堆で対潜水艦戦を伝授
――「北東アジアの緊張が高まっている今、韓国と仲良くしないと日本は安全保障上、不利だ」という人もいます。
鈴置:韓国に近い日本の国会議員や学者、記者がそう声を揃えます。「関係を改善しないと、日米韓の軍事協力が円滑に進まない」との理屈です。韓国政府の意向を受けたものでしょう。でも、その嘘も次第にばれてきました。
実は、3カ国の軍事協力は今や、史上最強の水準にあります。日米韓は日本海での対潜水艦訓練を2022年9月30日に実施しました。
潜水艦探知の難しい大和堆で、北朝鮮を念頭に対潜戦のノウハウを海上自衛隊が韓国海軍に伝授するという過去にない合同訓練でした(「日米韓共同訓練で韓国の国論は真っ二つに… 迷走の本質は『恐中病』」参照)。
文在寅政権が壊した日韓の軍事情報交流も元に復しています。2月16日に公表した韓国の国防白書は「必要な情報交流は正常に行われている」と評価しています。聯合ニュースの「韓国国防白書 日本を『近い隣国』に格上げ=関係改善の意思反映」(2月16日、日本語版)で読めます。
北朝鮮は日米韓の軍事協力体制を強力に非難、2月18日にはICBM級のミサイルを日本のEEZ(排他的経済水域)に打ち込みました。3カ国の軍事協力が北にとって脅威となっている、何よりの証拠です。
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