なぜ日本で深刻な「パイロット不足」が? JAL元機長は「教育が長すぎる」

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 大勢の命を預かる旅客機のパイロットになるには今も昔も難関が待ち受けている。ところが、国土交通省が、その資格を取得するのにかかる時間を大幅に短縮する方針だという。そもそも、旅客機のパイロットになるまでどのぐらいの訓練と試験が必要なのかというと、

「第一関門として小型機の事業用操縦士の資格を取るところから始まります。一般的には、単発機の操縦訓練を10カ月行ってからまず試験を受け次に双発機の訓練3カ月を経てまた試験。そして計器飛行の訓練を3カ月受けて、もう一度試験に合格しなくてはいけません」(国交省航空局の担当者)

 つまりは合計16カ月の訓練と3回の試験があるわけだが、航空大学校や航空会社の自社養成コースでは、ここまで行う。だが、これは入り口。

「そこからパイロット候補生としてエアラインで訓練を重ねながらボーイングやエアバスなど型式ごとのライセンスを取得してゆく必要があります」(同)

深刻な人材不足

 晴れて旅客機のパイロットになっても、それで終わりではない。ライセンスは定期的に更新する必要があり、そのたびに試験を受けなくてはならないのだ。国交省によると、「短縮案」は入り口となる小型機の訓練と試験を1回ずつにするという。訓練の重複を省いて13カ月程度の課程にまとめ試験も1回のみにし、早ければ2024年からスタートしたいとしている。

 背景にあるのはパイロット不足だ。

「現在、国内航空業界には約6800人のパイロットがいますが、4割が50代です。これに対して新しくパイロット候補生として採用されるのは年間約330人(令和3年)。将来必要とされる人員は9千人といわれ、現状では全く足りていません」(大手エアライン幹部)

「日本のパイロット教育は長すぎる」

 だが、その昔、羽田沖でエンジンを逆噴射させて旅客機を墜落させた機長の例もある。パニックになりやすいなどの個々の資質を見抜くのには時間と手間が必要では?

 JALの元機長で航空評論家の小林宏之氏が言う。

「パイロットのメンタルについては今でも教官や精神科医が常にチェックしています。むしろ日本のパイロット教育は重複が多いし、長すぎるのです。アメリカなどは8カ月ほどで事業用の操縦士資格を取らせますから」

 エアラインのパイロットは速成教育。これが、世界の常識になっているらしい。

週刊新潮 2023年2月16日号掲載

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