「魔将」と呼ばれたヤクルトの助っ人、「ガイエル」が発揮した“特殊能力”

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“魔空間”を自在に操る

 超能力や異次元などの超常現象は、科学が発達した現代においても、未だに謎が解明されていない。今から10年以上前のプロ野球界にも、「“魔空間”を自在に操る」として、コアなファンの間で信奉され、“魔将”と呼ばれた外国人助っ人が存在した。【久保田龍雄/ライター】

 助っ人の名は、アーロン・ガイエル。2005年にロイヤルズ傘下の3Aで30本塁打を記録した左打ちの外野手は、ヤンキースに移籍した翌06年には、負傷離脱した松井秀喜に代わって44試合に出場、打率.256、4本塁打、11打点の成績を残した。

 2007年、メジャーに移籍した岩村明憲の穴を埋める強打者を探していたヤクルトが、アレックス・ラミレス、アダム・リグスに次ぐ「第3の外国人野手」として契約した。

 来日後、キャンプに合流したガイエルは、2月13日の紅白戦で右越え2ランを放ち、「投手が振らせようとするボール球を見逃して、甘い球をしっかりとらえた。内容のある結果だった」と古田敦也兼任監督を喜ばせた。

 さらに、シーズン開幕後、ガイエルはひと際異彩を放つ“特殊能力”を発揮する。4月12日の横浜戦、1点リードの9回にガイエルは折れたバットが打球とともにファースト・吉村裕基を強襲するという珍打でタイムリーエラーを誘発し、貴重な追加点を叩き出した。

 8月1日の阪神戦では、5回に先頭打者として下柳剛から右肘に死球を受けると、打者一巡して回ってきた次の打席でも、岩田稔の内角直球が右脇腹を直撃し、1976年の広島・衣笠祥雄以来31年ぶりの「1イニング2死球」の珍事となった。

 同年、リーグ最多の23死球を記録したガイエルは、古田監督も認めた選球眼の良さで88四球を選び、打率が2割台(.245)なのに、出塁率はリーグ4位の.381を記録。このアンバランスな数字も異能ぶりを引き立たせた。

まさかのランニングホームラン

 そして、古田兼任監督の引退試合となった10月7日の広島戦で、“魔将”の名を決定的にした珍プレーが見られる。

 1対5の6回、ガイエルはショート後方にフラフラした飛球を打ち上げた。直後、風に流された打球を追っていたショート・梵英心とレフト・井生崇光が激突。ボールが外野を転々とする間に、ガイエルは俊足を飛ばして生還し、まさかのランニングホームランになった。

 それ以前にも、平凡なゴロがベースに当たってタイムリー二塁打になったり、守備の名手がイージーフライを落球するなど、“魔空間”を思わせる不思議な現象が相次いでいた。

 同年5月22日付の「東京スポーツ」は、「ガイエルは超能力で空間をゆがめている」の見出しで、超能力がチーム内でも話題になっていることを紹介し、「ふと気が付くと、ライトのガイエル寄りに立っていることがよくある。(センターの)定位置に立って、動いていないはずなのに……」という青木宣親の証言を掲載している。

 前出の“左前ランニングホームラン”も、コアなファンの間で「使いつづけてくれた古田監督に恩返しするために空間を歪めた」という“都市伝説”的な話になった。

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