【袴田事件】まもなく再審可否決定 「警察の捏造」と確信していた女性弁護士が明かすその手口

  • ブックマーク

 東京高裁は袴田巖さん(86)の再審開始の可否について、3月13日に決定を出すと弁護団に伝えた。巖さんを支え続け今年2月に90歳になった姉のひで子さんはじめ弁護団(団長・西嶋勝彦)や支援者は、再審開始の決定を信じている――。1966年に静岡県清水市(現・静岡市清水区)で起きたいわゆる「袴田事件」で死刑囚となった巖さんと、その姉・ひで子さんの戦いを追った連載「袴田事件と世界一の姉」の29回目。今回は巖さんの雪冤のために活動した女性弁護士を紹介する。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

帰ってしまった巖さん

 1月29日、年2回開かれる「袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会」(代表・楳田民夫)が開催された。この日は弁護団の若手・加藤英典弁護士による東京高裁での再審請求審の経過報告と、冤罪事件「大崎事件」(註1)の弁護団事務局長・鴨志田祐美弁護士の講演がメインだった。東京高裁(大善文男裁判長)の差し戻し審がヤマ場に差し掛かっていることを知る人は多く、いつもよりも参加者は多かった。

 加藤弁護士の講演の途中、巖さんがひで子さんとともに会場に入ってきた。地元・浜松市で巖さんを支援する「見守り隊」の猪野待子隊長に、「ここにいる人はみんな巖さんの味方だから」と励まされ、巖さんは壇上に上がった。

 巖さんは「今日は東京に来たんだね」などと切り出し、発言の真意を理解するのは困難だったが、「闘いに勝つんだね」「世界一になる」などと話した。頃合いを見てマイクを取ったひで子さんは「再審開始が出ると願っています。もう、一区切りつけてもらいたい」などと礼を述べた。

 2人は最前列の席に戻り講演を聞くのかと思ったが、巖さんはそのまま会場を出ようとする。こうした時、ひで子さんは巖さんを引き止めようとはしない。弟を無理に周囲に合わさせようとしない理由を、「巖は何十年も監獄に閉じ込められて、どこへも行かれなかったんです。だから私は、釈放された巖にはいつも好きなようにさせてやってるんですよ」と語る。「世界一の姉」の矜持である。

 袴田さん姉弟の送迎を担当する猪野さんも2人を車に乗せて帰ることになり、予定していた猪野さんによる近況報告「袴田家物語」はお預けになった。

「裁判」という言葉に反応?

 加藤弁護士が悪いわけではないが、彼が「裁判官に会った時どうでしたか?」と巖さんに問いかけたことが原因で、帰りたくなってしまったのかもしれない。巖さんは昨年12月にひで子さんと上京し、大善裁判長らに会っている。

 司会をしていた同会の事務局長・山崎俊樹さんは「巖さんは裁判という言葉にどうしても敏感に反応してしまうのだと思います。裁判は嫌なことばかりでしたからね。本当に残酷な話です」と話した。

 鴨志田弁護士は大崎事件を説明するとともに「再審開始はラクダが針の穴を通るほど難しいと言われていますが、私は3回も針の穴を通したのです。それなのに……」と語る。何度でも検察が抗告できる日本の司法制度を改める必要性について、いつものごとくマシンガンのように一気に話して集会を盛り上げた。

 実は、鴨志田弁護士は昨年6月の集会で講演するはずだったが、同時期に鹿児島地裁が大崎事件の原口アヤ子さん の再審請求を棄却してしまい、その対応にあたるため講演は延期されていた。袴田事件も時間がないが、大崎事件は現在95歳となる原口さんの身体的衰えから見ても、さらに時間が残されていない。

 鴨志田弁護士は「袴田さんの再審開始決定直前の講演で光栄です。何度もひで子さんの御宅にお邪魔しましたが、いつも巖さんはパトロールに出ておられて会えなかった。今日初めてお会いできたんですよ」と喜んだ。

次ページ:穿けないズボン

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[1/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。