会えば彼女に触れたくなる、だがその先は地獄… アラフィフ夫が出した結論をどう理解すべきか

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肉体の接触は握手だけ

 現行の民法では、離婚事由となる「不貞」は、あくまでも婚外の肉体関係を指す。つまりはその関係がなければ、「不倫ではない。友だちだ」という言い訳は通用する。しかも彼らの肉体の接触は握手だけだという。

「帰りに握手するのが習慣になっています。手をつないで歩いたりはしません。僕にとって、彼女の手のぬくもりだけが、知っている彼女の肉体ですね。でもね、いいんです、肉体は。そばにいれば『感じる』ことはできるから。会って話すこと、言葉にしきれないことをまなざしで伝え合うこと。それが重要なんです」

 妻とは相変わらずの関係だ。会話がないわけではないが、家庭内の雰囲気は常に「微妙」で、決して思ったことを言える雰囲気ではない。子どもたちのサポートだけは続けているが、彼の思う「子どもらしさ」はあまり見られない。もはや、そういった子どもらしさを求める自分が間違っているのかもしれないと思うこともあるという。

「未優とは、定年になるまでがんばろうと話し合っています。まだ時間はある。僕らはもっとお互いを知ることができる。そこに希望をもっているんです」

 ひとしきり話し終えて、翔太郎さんは「僕らはやっぱりおかしいですか?」と言った。カップルが10組いれば10組のありようがある。そしてそこには20の思いがあるはずだ。

 ***

 互いの家庭を壊さないよう、節度を守り、ささやかな逢瀬を翔太郎さんは楽しんでいる。ゆくゆくは未優さんと一緒になりたい気持ちはあるようだが、今は現状に満足しているようだ。

 だが、注意したほうがいいかもしれない。肉体関係のないつながりは「不貞行為」にあたらないのかもしれないが、プラトニックな関係でも賠償命令が下された例はあるのだ。

 2014年4月9日付産経ニュースが報じた「『プラトニック不倫』でも賠償命令…肉体関係『回避の努力』認めず一蹴の判決理由」には、こうある。

〈やはり「不倫」に代償は必要だった。夫と親密な関係になり精神的苦痛を受けたとして、大阪府内の女性が、夫の同僚女性に220万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は3月、44万円の支払いを命じた。判決は、同僚女性が夫に何度も肉体関係を迫られながら、巧みにかわして「貞操」を守ったと認定。それでも、同僚女性が夫のアプローチをはっきりと拒絶せず、逢瀬を重ねて二人きりの時間を過ごしたことから、地裁は「同僚女性の態度と夫の(原告女性への)冷たい態度には因果関係がある」と判断した〉

 こちらの夫の場合は、女性にキスを迫ったり抱きしめようとしたり、はては肉体関係を求めるも断られたという経緯があるから、翔太郎さんとは事情がいささか異なる。かねてより夫婦仲が悪化していたところに築いた関係だったことも、判決には影響していそうだ。なお〈一線を越えない努力が認められなかった〉女性側は控訴している。

 女性の言動が家庭内で問題を抱える夫に無謀な期待を抱かせた――判決ではこうも言及されているのが物悲しい。ただし、家庭内の問題云々の点では、妻や子どもたちと向き合うことを半ば諦めているような翔太郎さんも反省すべきところはあるのではないか。うまくいかない家庭生活でストレスの発散先が、未優さんとの関係になってしまっているようにも映る。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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