会えば彼女に触れたくなる、だがその先は地獄… アラフィフ夫が出した結論をどう理解すべきか

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「あなたは私を下に見てる」

 そして結婚。聡明な圭子さんに、翔太郎さんはすべて一歩譲った。彼女は仕事で期待され、家では主婦業を完璧にこなした。彼が家事に手を出そうとすると怒られたという。

「私がやるからあなたは休んでて、とよく彼女は言っていたけど、手伝われるのが嫌なのではなく、自分の完璧さを確かめたい、僕にも見せつけたいと思っていたのかもしれません。すべて自分のやり方でないと気に入らないところもあったでしょう。性格もいいし明るいんだけど、そういうところは新婚のころから頑固で意地っ張りでしたね」

 圭子さんは長女を出産すると、すぐに復職した。それも彼女の人生の計画通りだったらしい。それから2年後、今度は男の子を出産、そこまではすべて思い通りだった。ところが長男を出産後、彼女はとうとう体調を崩してしまう。長女のときのようにすぐに仕事復帰とはいかなかった。前回は育休もほとんどとらなかったので、今回はゆっくりとったほうがいいと彼は進言した。

「それでも言うことを聞かず、彼女は長男が生まれてから半年後に職場復帰しました。ところが2ヶ月ももたず、倒れてしまった」

 自分が体を壊すのは想定外だったのだろう。圭子さんはあわてふためき、「こんなはずじゃない」と愚痴を言い、さらに翔太郎さんに八つ当たりするようになった。自分がふがいなくてたまらなかったのだろう。それがわかるだけに彼は圭子さんを慰め、励ました。ところが圭子さんは「あなたは私を下に見てるのね」とさらに言いがかりをつけてくる。

 ものごとがいつもうまくいくと思ってやってきた人は、そういうときに歯止めがきかなくなるのかもしれない。幸せの沸点は低いほうがいい。

「とりあえず子どもたちは元気だし、圭子はゆっくりして体調を整えよう、人生はまだ長いんだからと毎日のように伝え続けました。彼女はようやく事態をきちんと受け止め、休職することになりました」

 ホッとしたのもつかの間、今度は家にいるものだから、子どもたちのことが気になってどうしようもなかったようだ。2歳児に英才教育をほどこし、0歳児にも英語を聞かせたり絵本を読み聞かせたりするようになった。

「0歳から3歳までが勝負なのよ、この時期は脳がいちばん発達するのと主張していましたが、家に帰るとずっと英会話が流れているんです。音楽を聴きたいというとクラシック。テレビはつけてはダメと言われて。僕は野球やサッカーが好きなんですが、それもダメだと……。圭子が早く体調を整えて仕事復帰しないかなと思っていました」

 ようやくその時期が来たのは、下の子が2歳を迎えるころだった。保育園の送り迎えや料理など、翔太郎さんはできることはなんでもした。だがそれ以上にがんばったのは、やはり圭子さんだった。

「職場復帰して半年もたつと、彼女はまた仕事をバリバリするようになりました。でもそれと同時にベビーシッターをつけて長女を幼児教育に通わせたり、長男には家庭教師を雇ったり。そんなお金がどこにあるのかと思ったら、彼女の祖父母が出してくれていたらしい。お金のことは妻に任せていたから、僕は気づかなかったんですが。もちろん、幼児教育や幼児家庭教師の件も事後報告でした。見慣れないおもちゃがあるので聞いたら、『それはおもちゃじゃなくて教材よ』と妻に言われて。そうまでして脳を鍛えなければいけないのかと不信感を抱きましたね。でも妻は、子どもにいちばん大事なのは教育だと譲らなかった」

 家庭の基本は妻が作っていく。それがすでにできあがっていた。だが長男も長女も、難関私立小学校には合格しなかった。妻は「父親のモチベーションが低いからよ」と泣いた。

「妻にとって、自分が体調を崩したのは想定外だった。だけど自分はがんばって復帰した。次は子どもが最高の教育を受けられる環境を作ることだった。でもそれが僕のせいでダメになったというわけです」

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