人口は35分の1に 無人の幼稚園の前を戦車が通る、ウクライナ激戦地「バフムート」のリアル
丘に囲まれ、幹線道路が四方に延びる要衝
イスラム教を創始したムハンマドが語源という説もあるバフムート。いま、この耳慣れない名の街がウクライナ戦争の行方を占う激戦地として世界中の注目を集めている。開戦から1年を前に、ボランティア活動を続けながら取材にあたる写真家・尾崎孝史氏の現地レポートをお届けする。
***
【写真を見る】残されたネコが見つめるのは何か 皿の水は凍り、飲むこともできない
ザポリージャにある人道支援団体の車で東へ6時間。ウクライナ軍が厳重に管理する検問所を抜けると視界が開けた。
南北に約9キロ、東西に約9キロ。丘に囲まれ、幹線道路が四方に延びるバフムートは、ロシア、ウクライナ両軍が支配権を争う東部地域の要衝だ。
氷点下11度 凍えながら話す男性
街に入ると砲撃で破壊された建物が目につき、幼稚園の前を戦闘車両が轟音を立てて走っていた。ミサイルを発射する音が断続的に響く。
ここから3キロほどのところで銃撃戦が行われているという。
ロシア軍の攻撃で約7万人いたかつての人口は、約2千人に減少、その多くは地下室で息を潜め暮らしている。
街の西側の住民、ヒゲが伸びた50代の男性は言う。
「電気が来ないから車のバッテリーを持ち込んで照明をつけているんだ。もちろん水もガスも止まったままさ」
前日の最低気温は氷点下11度。砲撃で自宅の窓が壊れたままの30代男性は、凍えながらこう話す。
「住民は次々と避難していった。私は行くあてがないので、ここにいる」
[1/2ページ]