甲子園の「私立独占」を許すな! 存在感を示す公立高校の“逆襲”
6人のOBが現役のプロ選手
一方、同じ四国で高松商に匹敵する公立高校は、鳴門(徳島)だ。徳島県は、私立高校のチームが生光学園のみで甲子園を狙いやすいということもあるが、2010年以降、春夏合わせて12回甲子園に出場し、ベスト8には3度進出しており、見事な戦績だ。
昨年は春夏の甲子園に連続出場を果たした。いずれも初戦で敗退したが、選抜は、優勝した大阪桐蔭を相手に1対3と接戦を演じている。高松商のような打撃力はなく、戦い方は比較的オーソドックスだ。過去10年間で、板東湧梧(ソフトバンク)、河野竜生、中山晶量(ともに日本ハム)の3投手がプロ入りしていることからも分かるように、投手を中心とした手堅い戦いぶりには定評がある。残念ながら、今年の選抜は出場を逃したものの、夏の甲子園での健闘を祈る。
「プロへの選手輩出」という観点では、大分商(大分)が、抜群の実績を残している。侍ジャパンに選出された源田壮亮(西武)や森下暢仁(広島)をはじめ、6人のOBが現役としてNPBでプレーしており、これは公立高校では最多である。
筆者は、森下の在学時に、大分商を訪れて取材したことがある。グラウンドは野球部の専用ではなく、設備が恵まれているとは言えない環境だった。当時指導していた渡辺正雄監督(現・佐伯鶴城監督)が昨年春から異動となったため、今後どうなるかは不透明だが、今年春も選抜出場を果たしている。大分県内での強さは依然として健在だ。
「伝統がなくても結果を残せる」
ここまで紹介した3校は、戦前から甲子園に出場している伝統校だが、その以外でも着実に力をつけている公立高校がある。代表格が富島(宮崎)だ。
09年夏の宮崎大会で1勝して以降、4年間で一度も公式戦で勝つことができない弱小チームだったが、13年に浜田登監督が就任すると、瞬く間に県内で“屈指の強豪校”に変貌を遂げた。
18年春の選抜で甲子園初出場を果たすと、19年と22年の夏の甲子園に出場している。本大会の勝利はまだないものの、昨年のエース、日高暖己(オリックス5位)が同校からは初のドラフト指名を受けたほか、19年夏に出場した時の主力だった松浦佑星(日本体育大)は、今年のドラフト会議で指名が有力視されている。
実際に何度か同校を訪れて、練習を取材した。限られた環境の中で、保護者の理解を得ながら体力強化を図り、プレーの面では細かい数字を示しながら、スキル向上を目指しており、非常に効率的な取り組みが印象的だった。「伝統がなくても結果を残せる」という好例と言えるだろう。
冒頭でも触れたように全国トップクラスのチームに、いわゆる“普通の公立高校”が対抗するのは簡単ではない。その一方で、公立高校にとって“追い風”となっている状況もあるという。
「プロを狙えるような有望選手は、全員が全員、強豪の私立高校に行くわけではありません。特に最近は、家庭の経済的な事情で、寮費などの負担が大きい私立への進学は難しいというケースが増えているとも聞きます。また、以前に比べて、野球だけをやっていれば良いと考える保護者が減り、勉強と野球もしっかり両立したいという選手が増えてきています。そうなると、公立高校で指導者がしっかりしている学校が、選手に選ばれますよね。チームや指導者の情報は、以前とは比べ物にならないほど広がっていますし、実績がある指導者が異動するとなれば、入部を希望する選手の数が大きく変わります。県によっては、実績のある指導者はなかなか異動しないということもありますね。公立高校でも上手くブランディングできているチームは強く、逆に私立でも経営が苦しい学校もあります。そう考えると、10年後の高校野球界は、今とは異なる勢力図になっているかもしれませんね」(NPB球団の関東地区担当スカウト)
昨年ドラフト2位で西武に入団した古川雄大(佐伯鶴城)も、中学時代には私立の強豪校から誘いがあったものの、地元大分の県立高校、佐伯鶴城に進学してプロ入りを勝ち取っている。また、富島のように、野球部としての伝統がないチームでも、指導力がある監督が就任することで、大きく変わる可能性があることも確かである。あらゆる工夫を駆使して、私立の強豪校に対抗しうる公立高校が現れてくることを期待したい。
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