従来のタイムリープ系作品とは全く違う… 「ブラッシュアップライフ」はなぜ評価が高いのか

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小中学校の同級生たちが脇を固める面白さ

 また、多くのドラマは主人公と大学、あるいは高校の同級生との関係性にスポットを当てるが、それを避けた。これもハマった。そもそも、幼なじみという色合いが強い小中学校の同級生のほうが、人間関係が濃厚で、ドラマにしやすい。

 しかも公立というのがポイント。いろいろな生徒が集まる。麻美の場合、なっちこと門倉夏希(夏帆[31])、みーぽんこと米川美穂(木南晴夏[37])との絆を深めた。

 さらに、自惚れ屋の福ちゃんこと福田俊介(染谷将太[30])、大人しいのにキレると怖いレナちゃんこと森山玲奈(黒木華[32])、見た目は派手だが気立ては良いごんちゃんこと丸山美佐(野呂佳代[39])らと親しくなった。個性派たちを無理なく登場人物に加えられた。

 タイムリープ系の連ドラは往々にして矛盾する部分が出てきてしまうのが難点だが、この作品はかなり綿密に考えられているので、整合性が保たれている。

 例えば麻美の進路。1周目の人生では架空の西埼玉大学文学部を出て北熊谷市役所入りしたが、2周目では同大薬学部を卒業して薬剤師になった。

 理転であり、ムチャな進路変更とも言えるが、麻美はもともと看護師志望。 しかし、血が苦手なので、薬剤師に軌道修正したという経緯がある。

 看護師志望はこじつけではない。小学校低学年の時、なっち、みーぽんとドラマクラブを立ち上げ、作品論を語り合った。そこで麻美が熱く推していたのがフジテレビ「ナースのお仕事」(1996年)。そのころから麻美は看護師に憧れていたわけだ。この作品が放送されたのは麻美が7歳の時だから、夢中になったとしても矛盾はない。

 3周目の人生では日本テレビに就職。かなり大幅な職種転換だが、そもそもドラマ好きだから、奇異な選択ではない。これも整合性が保たれている。

 時代考証は舌を巻くほどしっかりしている。麻美は2周目と3周目の保育園児時代、レナちゃんのパパ(勢登健雄[43])と洋子先生(中田クルミ[31])の不倫を、ポケベルを使って阻止した。その過程で公衆電話を使ったため、夜中に公園へ行った。

 ところが、警官に見つかったことから、4WD車の下に隠れた。この車は麻美が2歳だった1991年に発売された三菱の2代目パジェロ。車高の高さが特徴の1つだった。

 その後、麻美が団地の自宅に帰ると、敷地内に車が停めてあった。1987年式のトヨタのクラウンだ。どちらの車も時代に合う。家の中の家電品も時の流れに応じて変えてあるから、観る側をシラケさせない。

 また、麻美の保育園時代、周囲の女児たちはセーラームーンごっこ遊びに熱心だったが、元となった漫画『美少女戦士セーラームーン』の連載開始は1992年。麻美が3歳の時であり、これも現実に沿っている。当時、この遊びは女児の間で凄まじいまでに流行した。

 遊びが始まったころは主人公のセーラームーン役が圧倒的人気だったが、やがてセーラーマーキュリー役が高い支持を集めるようになる。使える攻撃技が増えたからだ。このため、麻美の保育園でのマーキュリー熱の高さも事実と合う。

既存のドラマにない笑い

 笑わせてくれる場面がふんだんに散りばめられているのも魅力。さすがは優れた芸人・バカリズムの脚本である。それを演じているのが実力派ばかりだから、滑ることがない。

 例えば第6話で、人生3周目の麻美が、自宅でなっち、みーぽんと福ちゃんから押し付けられた新曲を聴いたシーン。

 この時、29歳の福ちゃんは歌手の道をあきらめてなく、3人は陰ながら応援しようと誓い合った。直後、麻美が曲をかけた。

 聴こえてきた福ちゃんの歌声はまるで地底から聞こえてくる不気味な叫び。それが30秒以上も流れる間、3人は微動だにせず、魂が抜けたような表情だった。

 意を決して、みーぽんが口を開いた。

「この流れで絶対言うことじゃないと思うんだけど…言っていい?」(みーぽん)
「どうぞ」(麻美)
「ダサくね」(みーぽん)

 応援ムードはきれいに吹き飛んだ。シニカルなコントの一場面を観ているようだった。既存のドラマにはない笑いだった。

 今後の展開はどうなるのか。まずキーパーソンは第3話の最終盤に登場した謎の女性(水川あさみ[39])に違いない。麻美の人生2周目のことだった。くしくも1周目の人生では麻美が死んだ日である。女性は麻美やなっちたちが立ち寄ったコンビニの前にいた。

 女性は麻美を見つめていた。おそらく知り合いだ。みーぽんの誕生会で話題になった中学時代の生徒会長・宇野真理の可能性が高い。この誕生会でやはり話題になったごんちゃんとも麻美は3周目人生で出会っている。

 麻美は3周目人生までは真理ちゃんと没交渉だった。真理ちゃんが成績優秀で、おまけに美人で性格も良かったから、住む世界が違った。

 だが、第6話から始まった4周目の人生での麻美は猛勉強の日々。真理ちゃんと成績トップを争うようになれば、自然と関係が生まれるのではないか。ひょっとしたら、麻美が成績トップに立ち、真理ちゃんの将来を変えてしまうのかも知れない。

 大量に徳を積むためには、どうしたらいいのか。そろそろ、その答えが出るだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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