従来のタイムリープ系作品とは全く違う… 「ブラッシュアップライフ」はなぜ評価が高いのか
冬ドラマで屈指の人気作となった日本テレビ「ブラッシュアップライフ」(日曜22時半)。やり尽くされていると思われていたタイムリープ系作品でありながら、どうして視聴者から歓迎されたのか。その理由を考察し、終盤の展開を予測する。
新しいタイムリープ系作品
タイムリープ系作品は過去に数え切れないほど映像化されたが、それでも「ブラッシュアップライフ」が歓迎されたのは斬新だったから。
逆に古臭いタイムリープ系作品とはどんなものか。それは第5話の中で語られていた。
3周目の人生で日本テレビに入社した主人公の近藤麻美(安藤サクラ[37])が、自らの体験をベースにしたドラマ「ブラッシュアップライフ」をプロデュースすることになった際のこと。台本打ち合わせの場で脚本家の1人がこう言った。
「設定はいいんですけど、どうせ(人生を)やり直すんなら、もっと派手な事件が起こったほうがいいですよね」
確かに過去のタイムリープ系作品はほとんどが派手。だが、それは飽きられている。
この作品は地味で狭い世界に拘った。それが良かった。舞台の大半は麻美の地元・埼玉県北熊谷市だし、登場人物のほとんどは小中学校の同級生たち。過去のタイムスリープ系作品とは対象的だ。
新しい点はまだある。タイムリープ系作品には主人公が100年、200年と過去に向かうものもあるが、この作品は麻美が生まれた1989年にしか戻れない。麻美が人生をやり直す物語なので、そうなるのだが、この設定がミソだった。
平成史の物語でもあった
脚本を書いているバカリズム(47)はこの設定を生かし、多くの人がそろそろ忘れかけている平成の風俗と文化を思い起こさせている。チョイ懐かしい世界である。ポケベル、セーラームーンごっこ遊び、シール交換、たまごっち、ゲームボーイアドバンス……。
バカリズムはこの作品を通じ、このおよそ30年間での変化を浮き彫りにしようとしている。その意図を象徴するのは麻美が生まれた年である。平成の始まりだ。
エンディング曲が週替わりで、平成のヒット曲を流しているのもチョイ懐かしい過去を観る側に振り返らせるためだろう。忘れかけていたが、いい曲が多い。
無論、この間の人間の変化も描いている。例えばミタコングこと中学時代の社会科教師・三田哲夫(鈴木浩介[48])は第4話で麻美に向かって、こう嘆いた。人生3周目だった麻美のお陰で、痴漢冤罪を免れた電車内でのことだ。
「近藤たちがいたころと違って、今はすぐ親が出てきて、問題になっちゃうから大変だよ。生徒たちもそれが分かっているから、先生のこと舐めちゃってさぁー」(ミタコング)
昭和は遠くなったが、平成も初期と中期は最近のことではなくなりつつある。この作品はそこに着眼している。
主な舞台である架空の地方都市・北熊谷は、多くの視聴者にとって身近に感じられるはずだ。
都心までは高速道路を使えば車で2時間弱というから、距離にすると70~80キロ 程度。都民の視聴者も縁遠い場所とは思わないだろう。
一方、地方の人の多くは近しく感じるはず。実在する地方都市に点在するラウンドワンや夢庵、ジャスコ(麻美が大学を卒業する1年前の2011年にイオンに)などが登場するのだから。うまい設定を考えたものだ。
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