侍ジャパン・栗山監督が持つ“不思議な力”とは 2度野球から逃げた過去が(小林信也)

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野球を優先せず

 プロ野球に入る時から、栗山は異色の存在だった。珍しい国立大出身の野手。

 著書『栗山魂』を読むと、〈自称天才、凡才に化し、夢から逃げる〉と題する第2章にこんな一節がある。

〈中学卒業を目前にした15歳の僕は、東海大相模ではなく創価高校を選択しました。野球で潰れたらどうする、という両親の助言を受け入れたものでした。

 高校卒業を目前にした18歳の選択は、明治大学ではなく東京学芸大学になりました。今回もまた、野球を最優先に進路を決めることはありませんでした。

 人生の勝負から、僕は2打席連続で逃げ出したのです〉

 読んだ方が混乱する。逃げた、無理をしなかった、結果的に日本代表監督になった、という不思議な話だ。

 だがプロ入りに際しては、かなり大胆な行動に出た。

 ある日、練習試合相手の玉川大ベンチに「プロ野球ニュース」のキャスターとして有名な佐々木信也を見つけた。子息の応援に来ていたのだ。後日改めて面談し、プロ球団への紹介を頼む。佐々木の口添えで入団テストを受け、ヤクルト入りが実現した。何としてもプロ野球に入りたい、情熱に突き動かされる栗山の激しさを知って驚く。それは“新時代に求められる監督”という天職に就くための神の配剤だったのか。前出の著書にこうある。

〈プロ野球チームのテストを受けるにあたって、僕には幸運がありました。

 たとえば、東京六大学野球でプレーしてきた選手は、テストを受けてまでプロになろうとは思わないそうです。「思えない」と言ったほうがいいでしょうか〉

 東京学芸大だから、逆にテスト入団の道を手繰ることができた。

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