日本郵便と製造業の不二越が最低評価…賃上げ実現のために政府がやるべきこと

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「下請けイジメ」企業を名指し

 このような現状に危機感を抱いた政府は、これまでタブー視されることが多かった「民間企業間の商取引」にメスを入れ始めている。

 経済産業省は2月7日、取引先の中小企業との価格上昇や転嫁に後ろ向きな大企業を実名で公表した。調査の手順や内容は以下のとおりだ。

 最初に15万社の中小企業を対象にアンケート調査を実施し、10社以上の中小企業から取引先として名前が挙がった約150社の大企業をピックアップした。次に選定された大企業について(1)コスト上昇の何割について価格転嫁に応じたか(転嫁状況)と(2)交渉に応じたか(交渉状況)を調査したところ、日本郵便と不二越(製造業)の2社が最低の評価だった。

 経済産業省は毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」に指定し、中小企業を対象に価格交渉の進捗などを調査しているが、今回のように「下請けイジメ」をしている大企業を名指ししたのは初めてだ。

 公正取引委員会も昨年末、「下請け企業との間で取引価格に転嫁するための協議を行わなかった」として13社・団体の名前を公表した。小林健・日本商工会議所会頭の出身母体である三菱商事の子会社なども名を連ねていたことから、経済界で激震が走った。前述の経労委の報告書はこの結果を反省して作成された可能性がある。

 政府の取り組みは一歩前進だが、公表された事例は氷山の一角に過ぎない。

 日本銀行が公表した1月の企業物価指数は前年比9.5%増と高止まりの状況が続いており、政府は価格転嫁の実態についてさらに監視の目を厳しくする必要がある。

 価格転嫁は喫緊の課題だが、大企業と中小企業の問題はこれにとどまらない。

 大企業と中小企業との間の収益力の格差が20年以上前から指摘されているが、筆者は「利益の配分が大企業に偏りすぎている」との思いを禁じ得ないでいる。

 昨年8月に発表された法人企業統計調査によれば、企業が上げた利益から税金や配当などを差し引いた内部留保(利益剰余金)は2021年度末に516兆4750億円と初めて500兆円を突破した。内部留保の大部分は大企業が保有していると推計されている。

 大企業が利益を独り占めするのではなく、貢献度に応じて中小企業に適切に分配し、賃金格差の解消に努めることも必要不可欠だと思う。

 デフレからインフレとなった今、中小企業の賃上げのための環境を一刻も早く整備することが肝心だ。政府は長年の懸案であった「下請けイジメ」を包括的に把握し、その是正に全力を尽くすべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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