「門田博光」は2度の「右肩脱臼」…ホームラン直後に起きた“驚くべきアクシデント”

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喜び過ぎた代償は“代走”

 次は本塁打を打ったのに、代走が送られる珍事が起きた1991年6月18日の中日対大洋である。

 6対6で迎えた延長10回裏、中日は2死無走者で6番・彦野利勝が盛田幸妃のスライダーをジャストミートし、ライナーで左翼席に叩き込んだ。劇的なサヨナラ弾でヒーローになった彦野は、一塁ベース手前で本塁打であることを確認すると、思わずジャンプした。

 ところが、このとき、右膝じん帯を痛めてしまい、着地後、顔をゆがめると、右足を押さえてうずくまった。「ゆっくり走れば良かった」と後悔した彦野だったが、あとの祭り。次打者・大豊泰昭の背中におぶさって、ベンチに戻る羽目になった。

 歓喜のサヨナラ劇が暗転するまさかの事態に、星野仙一監督は「幸司、行ってこい!」と山口幸司を代走に送り出し、彦野の代わりにダイヤモンドを1周させた。その後、彦野は右膝じん帯断裂の重傷と判明。喜び過ぎた代償はあまりにも大きかった。

 1969年5月18日の阪急対近鉄でも、2回に近鉄・ジムタイルが先制ソロを放った直後、一塁ベース手前で左足肉離れを起こし、代走・伊勢孝夫が送られている。その後、点の取り合いとなった試合は、5対5の8回に伊勢が決勝ソロを放ち、今度は自らの本塁打で2度目のダイヤモンド1周を披露している。

相手の捕手が「踏んでない」とアピール

 最後は本塁打を打ったにもかかわらず、本塁ベースを踏み忘れてアウトになった珍ハプニングである。

 2017年6月9日のオリックス対中日、この日1軍昇格をはたし、1番ライトで出場したオリックスの新助っ人・マレーロは、1点を追う5回無死一塁の3打席目に来日1号となる逆転2ランを放った。

 ところが、本塁付近で出迎えた球団マスコットのバファローブルとバファローベルがタッチの手を差し伸べた際に走路をずれ、本塁ベースを踏み忘れてしまう。

 直後、中日の捕手・松井雅人が「踏んでいない」とアピールすると、吉本文弘一塁塁審も「アウト!」をジャッジ。この結果、本塁打は三塁打に格下げされ、得点も同点止まりとなった。本塁踏み忘れで取り消された本塁打は、1981年の広島・ガードナー以来NPB史上2度目の珍事だった。

「自分は踏んだつもりだった。こんなことは初めて」と大いに恥じ入ったマレーロは、翌日の中日戦で4回に今度は“正真正銘”の来日1号を放つと、本塁手前でスピードを緩め、しっかり確認しながら、左足、右足の順で2度ホームを踏んだ。

 ベース踏み忘れで本塁打が取り消された次の試合で名誉挽回のアーチを放ったのは、一塁ベースを踏み忘れた1958年の巨人・長嶋茂雄以来の快挙だった。
 
 ちなみにマレーロは、シーズン終盤の9月29日のロッテ戦で6回に19号2ランを放っているが、これがNPB通算10万号に。本塁ベース踏み忘れが回りまわってメモリアルアーチの記録者として球史に名を連ねることになったのも、不思議なめぐり合わせと言えるだろう。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書) 

デイリー新潮編集部

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