立浪監督も驚いた? 中日・高橋宏斗が「山本由伸流」フォーム改造騒動後に見せた“凄み”

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立浪監督の投げかけた「疑問」

「全部が全部、山本と一緒にしようとするとおかしくなると思う」

 練習後の会見でそう語った立浪監督だが、複数の球団関係者の証言によると、投球練習を終えた直後の高橋に、懇々と説いていたのだという。

「去年、なんでお前が勝てて、なんで日本代表に選ばれたのか。その一番よかったものがなくなってるんじゃないか?」

 自主トレで、選手が自発的に取り組んできたことを、指揮官は全否定しようとしたのではない。ただ、方向性が間違っているのではないかという「疑問」を投げかけたのだ。

 その一方で、指揮官は投手担当の落合英二ヘッドコーチとも話し合い、同ヘッドから「本人がやろうとしていることなので」と見守る姿勢を示したことで、トップダウンでの“強制的修正”には乗り出さないという方針も確認し合ったという。

 高橋本人は、さすがに落ち込んでいたそうで、その日の練習後、一人で長く考え込むシーンが見られたのだという。それを配慮した球団側は、3日に予定されていた取材予定を延期するなど、気持ちを立て直す時間も取ったのだという。

 ただ、ここからが高橋の“凄さ”だ。

「まだ進化できると思う」

 第1クール最終日の2月5日、立浪監督も見守る中、ブルペンでの投球練習で見せたのは、昨季のように左足を上げ、踏み込んでから投げ下ろすという従来のスタイルだった。

 WBCの公式球を使用しての96球。そこにセットポジションからの投球では、左足の上げ方を抑え気味にする、スーパークイックの“アレンジ”を加えながら投げ込んだ。

 躍動感が、明らかに戻っていた。球団のスピードガンでは、最速「152キロ」をマークしていたのだという。

「憧れの投手と自主トレをして、いろいろ学んで帰って来たが、試しながら、というか、自分に合うところ、合わないところがある。本人もその選択は考えながらやっているし、心配はしていない」

 立浪監督も、その“切り替えの速さ”にむしろ、驚いていたのかもしれない。第2クール初日、7日のシート打撃でも、打者12人に対して45球を投げ、1安打3奪三振。山本から得た、新たなる感覚を注入した“進化型”の成果は、顕著に表れている。

「いい方向に持って行けるフォームを、いろいろ考えています。完成形ではなく、まだ進化できると思う」

 自信も取り戻した高橋には、WBCという大舞台が待ち受けている。今度は、身長196センチのダルビッシュ有、同193センチの大谷翔平のような、長身で腕も長い高橋に似たタイプの大投手たちと接し、直接学ぶ機会も得られるのだ。

 取捨選択、そして、自らに合う形にアレンジできる「柔軟性」があれば、メジャーの大投手から“コツ”を授けられ、それを吸収することで、さらなる進化を遂げる可能性も大だ。

 高橋宏斗は、まさしく成長のまっただ中にいる。

喜瀬雅則(きせ・まさのり)
1967年、神戸市生まれ。スポーツライター。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当として阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の各担当を歴任。産経夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。産経新聞社退社後の2017年8月からは、業務委託契約を結ぶ西日本新聞社を中心にプロ野球界の取材を続けている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)、「不登校からメジャーへ」(光文社新書)、「ホークス3軍はなぜ成功したのか」(光文社新書)、「稼ぐ!プロ野球」(PHPビジネス新書)、「オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年」(光文社新書)。

デイリー新潮編集部

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