犯罪者に「狙われやすい家の共通点」とは 下見の際にチェックする“意外な箇所”
「キレイ」は安全に直結する
犯罪者は「法(のり)・規」にきわめて敏感に反応する。法とは刑罰法規を含む法律だけを言うのでなく、「秩序」「規範」「軛(くびき)」、やわらかく言えば「一定の決まりの下に整い、安定して均衡がとれていること」である。
精神は形に、形は精神に反映する。物が秩序立っていることは、その社会や個人がそれなりに秩序だっていることを表す。だから犯罪者は、塀の落書き、散らかったゴミ、捨て置かれたような自転車を見て、その家の心の緩み(緊張の弛緩)、隙を読みとる。
「この町でやる」という品定めの決め手となるのも、駅前と町中の落書き、ゴミ(汚れて剥げかけたポスターは落書きやゴミに等しい)、放置自転車の三大汚れだという。屋根の連なり(スカイライン)が凸凹(でこぼこ)していないかどうかも、判断の要素になる。
そして「この家をやる」という決定には、三大汚れに加えて、家の庭木の手入れの状態が大きく作用する、と犯罪者は言う。枝葉が繁り放題の庭木は視界を遮るばかりか、家人の心の荒(すさ)びと規範の崩れを体現している。きれいは安全に直結するのだ。
ロックは2重以上に
昔から「ワンドア・ツーロック」(一つのドアに二つの錠)という。金言である。家屋にかぎらず、「一つだけの防御」は強固な意思を持った犯罪者には通用しない。
1970年代、荒んでいたニューヨークのホテルでは、自室に入るのに三つの錠を開けなくてはならなかった。それが治安が回復して二つで済むようになった、と元ニューヨーク市長は誇らしげに筆者に語った(1998年当時)。
最近は、2重ではなく3重の備えが必要とさえいわれる。これからは、ドアだけでなく、家の守りを担うあらゆる箇所で「ワンドア・スリーロック」の時代であることを強調しておきたい。
横手・裏手を固めよ
犯罪者は、家の横手と裏手を特に入念に下見する。実際、横手に回った時の犯罪者の目は違う。「やるぞ」というギッとした目になる。
彼らは言う。人間と同じで、顔は化粧で塗りたくっていても、後ろの髪は寝癖がついたまま、ということがある。人間は横や後ろに目がないから視線が行き届かず、スキが生じる。自衛するのが困難なのだ。
人はどうしても自分の住まいを最大限広く取ろうとして、隣家との境界ぎりぎりに家を建ててしまいがちだ。しかし、これが危険なのである。隣家から簡単に自分の家に跳び移られることになるのだ。
また、目障(めざわ)りな物、不要な物をとりあえず家の横手や裏手に積み重ねている家庭も多い。時には梯子(はしご)まで置いている。これも侵入にはもってこいだ。
それだけではない。人間はどうしてもそうした不要物(時には必要になるが)、汚れた物から目をそらし、無視したくなる。そこに犯罪者がつけいる隙が生まれる。家の作りとその利用の仕方から生じる隙間を塞ぐのは、心がけ一つなのだ。
家の守りの基本は、塀と家の壁に手をつけさせないこと。彼らが壁に手をつける前に手を打っておかなくてはならない。
入りを制して出を許さず
侵入盗を含め犯罪者の「やる気」は、獲物に「近づきやすく」、どれだけ現場から「逃げやすい」かに力点が置かれる。
侵入を寄せつけない(近づきにくい)と同時に、入った犯罪者をいかに逃がさないようにするか(逃げにくい)、その工夫が問われる。家をちょっと見ただけで、入ってもいいが出るのは許さない、という姿勢が見てとれるような演出が求められる。重い決意・決断を相手に要求するのだ。
以前は家の玄関に貼られた「防犯協会員」や「猛犬注意」のプレート、最近は警備会社のシステムが導入されていることを示すステッカーがある。しかしこれらの類いは、ともすればお守り札程度の効果しかない。泥棒によっては、「警備会社のステッカーは、この家には警備が必要なほどのモノがある、と教えてくれる」と考える。
心理的な工夫にとどまらず、目に見えて実効性のある「入りはあっても、出は許さず」という物理的な工夫が必要だ。
例えば、イギリスの家屋では玄関の上の壁に大型ベル(ドラム)が設置してあり、泥棒が窓や屋内に張られたセンサーにひっかかると、けたたましい音を鳴らす。それを聞いた近隣みんなで追いかけ、捕まえるという仕組みである。設置と運営管理は電力会社が行っており、大きなドラムは嫌でも目にとまる。
イギリスの侵入盗犯は、「ドラムは一番嫌だ。鳴らないようにするのでとにかく疲れる」と言っていた(英ハートフォード警察で、2000年)。日本の「スーパープロ」も、ドラムの仕組みを説明するとため息をついた。
「道路から見ただけで諦めるわ。だって、こんな大きな防犯ベルでけたたましい音を出された日には、隣近所ばかりか町中が追いかけて来るよ。たまったもんじゃない。先生、イギリス行って変なの見つけちゃいましたね」(猿の義ちゃん)
塀から3~5メートル前で判定
侵入盗はどういう判断で、どう行動して獲物(被害家屋)に襲いかかるのか。
侵入盗の8割は、塀(あるいは生け垣)に囲まれた家屋を、家屋の領域とは考えていない。彼らが侵入を決意するのは、狙い定めた家の塀際から最低3~5メートルの地点からだ。
そして塀の落書き、周りに散乱したゴミ、放置状態の自転車など三大汚れ(前述)の他、落ち葉、敷地外にはみだした庭木などを見る。彼らの目には、これらすべてがゴミに等しく映る。その家と近隣との関係、場合によっては住人の人柄まで見ている。ゴミは「やりやすさ」の判定指標なのである。
これに加えて、電信柱(今では登りにくいように工夫されているが)、ゴミ箱やビールケース、隣家の塀あるいは外階段、小庇や窓の位置、停められた車などが一定の条件を備えていれば、文句なしのターゲットと見なす。
住人にとっての家屋の領域は、玄関前か、せいぜい家の周辺1メートルぐらいにとどまる。しかし、侵入盗にとっては3~5メートル。この差が住人の意識の隙(心の死角)を生み出すのだ。
多くの場合、自分の家から1メートルと隣家からの1メートルでは重なり合わない空間が形成される。わが家の空間でも隣家の空間でもない曖昧な空間、これが責任をなすりつけ合う死角となる。近隣関係の大きな隙間は、犯罪者がつけいりやすい。
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