セリフも着物も昔とはかなり違う…NHK「大富豪同心」制作統括が語った時代劇進化論

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昔の時代劇は言葉が違う

 一方で変わったこともある。「言葉」だ。ここ20、30年で随分と変化したという。

「今は時代考証の先生方と『このくらいまで分かりやすくしましょう』などと話し合いながらセリフをつくっています。もちろん昔の言葉のニュアンスは残しますけど。そもそもセリフを江戸時代のままにしたら、誰にも分からなくなってしまいます(笑)」(内藤氏)

 確認するため、2000年の大河「葵 徳川三代」を観てみた。なるほど、第1回の冒頭から分かりにくい言葉が出てきた。まず石田三成(江守徹[79])が口にした「子々孫々(ししそんそん)」。意味は「末代まで」だが、聞いた瞬間は考え込んだ。

 それ以上に難解だったのは徳川秀忠(西田敏行[75])の正室・お江(岩下志麻[82])の言葉。「烏滸の沙汰(おこのさた)」である。「愚かなこと、バカげていること」を指すものの、中学生以下では理解できないのではないか。

 一方で「大富豪同心」や「どうする家康」など今の時代劇のセリフは平易だ。

「着物の色合いも変わりました。1990年代よりは少し鮮やかになりましたね」(内藤氏)

 確かに「葵 徳川三代」第1回のお江の着物は淡い山吹色。華やかとは言い難い。着物は衣装担当者が選ぶが、デジタル化で画質が飛躍的に向上したから、カラフルになったのではないか。もちろん作品の中身も変化した。

「昔の時代劇は明らかに時代劇で、史実にもかなり拘りましたが、今は現代目線を大切にしてつくられています。昔のままで時代劇をつくったら、若い方には外国映画のように映りかねませんから(笑)。生活の中に時代劇があった時代とは違います」(内藤氏)

 だから「大富豪同心」も現代人の感覚に合わせ、遊び心が加えられている。一例はドラマのエンディング。歌手・竹島宏(44)による主題歌「夢の振り子」に合わせ、出演陣が踊っている。

「これも所作が身に付いていない方たちだと難しい」(内藤氏)

 江戸時代を生きる人たちが踊っているように見せたいからだ。所作を知らないと、踊っているうちに着物が崩れてしまう恐れもある。

「踊りのシーンを撮った時、俳優さんたちは『どうせ使わないでしょ』と言っていたそうです」(内藤氏)

 時代劇のラストでの踊りは本邦初だからである。

人物像の新解釈が時代劇の醍醐味の1つ

 資料から人物像の新しい解釈を加えることがあるのも近年の時代劇の特色。内藤氏は「天地人」の際、小栗旬(40)が演じた石田三成のイメージを刷新した。

「日本人の多くは三成について、ちょっとずる賢いという印象を持っていたと思うのですが、それは主君の豊臣秀吉に対する義から来たものだと考えました」(内藤氏)

 結果、小栗の演じた三成は筋の通った男で、魅力的だった。

「八重の桜」は当初、違う内容の大河になるはずだった。内藤氏はその発表を2011年4月に予定していた。しかし、同3月に東日本大震災が起きた。

 震災時、内藤氏は「どんど晴れ」のスペシャル版(2011年)の制作統括として岩手を訪れており、被害を目の当たりにした。「NHKの大河ドラマとして何か出来ないか」と思い、上層部と相談。紆余曲折の中、変更のゴーサインが出た。

 被災地を応援する作品を1カ月検討し、決めたのは会津藩を舞台とした「八重の桜」だった。そうしたのは、偶然その地で出会った被災者と会津藩士の末裔が同じことを口にしていたことが大きいという。

「『自分たちは生き残ったんではなく、生かされたんです』とおっしゃっていたんです。そう思うと人生は自分だけのものではない。残された人たちが、生きたくても生きられなかった人たちのことを思い一生懸命に生きる。そこには必ず光は当たるということを描きたかった」(内藤氏)

 時代劇は過去が舞台だが、現代に通じるメッセージを盛り込める。

 なお、「特選!時代劇『大富豪同心』」の放送は3月19日までで、同26日からは同じ枠(総合)で「特選!時代劇『大富豪同心2』」が放送される。その終了後の6月からは「BS時代劇『大富豪同心3』」(BSプレミアム金曜午後7時30分)が放送される。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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