セリフも着物も昔とはかなり違う…NHK「大富豪同心」制作統括が語った時代劇進化論
10年前、20年前の現代劇を観ると、違和感をおぼえることがある。ドラマが、進化を続けているからだ。時代劇も一緒。NHK「特選!時代劇『大富豪同心』」(総合日曜午前6時10分)の制作統括・内藤愼介氏に時代劇の進化論を聞いた。
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時代劇も進化している
内藤愼介氏は連続テレビ小説「どんど晴れ」(2007年度前期)など数多くの現代劇の制作統括を務める一方、大河ドラマ「天地人」(2009年)や同「八重の桜」(2013年)など時代劇の制作統括も務めてきた。まず制作者にとって、時代劇の魅力とは何なのだろう。
「現代劇より人が持つ情を表現しやすいんです。わざとらしくならない。笑いと涙を盛り込みやすく、いい人も描きやすい。現代劇だと、いい人がウソっぽく見えてしまいがちなんです」(内藤氏)
善と悪を明確にしやすいのも時代劇である。
「そのうえ物語全体が分かりやすい。だから、お子さんたちもよく観てくれています。もちろん、ご高齢の方にも好まれます」(内藤氏)
近年は刀剣女子のブームなどもあって、「どうする家康」などの大河ドラマや、内藤氏が制作統括の「大富豪同心」も若者によく観られている。
「『大富豪同心』の場合、物語にほんの少し現代を採り入れていることも若い人にも観ていただけている理由の1つだと思います。時に話題の時事問題や政治風刺を取り入れたりもしています」(内藤氏)
歌舞伎俳優の中村隼人(29)が演じる主人公の同心・八巻卯之吉のキャラクターも若者を惹き付けていると内藤氏は見ている。
「時代劇の主人公は大半が強い人でした。あっという間に悪者たちを倒します。でも卯之吉は窮地に立つと気絶してしまうんです。情けない(笑)。その代わりに卯之吉を慕う人たちが悪党たちを倒す。卯之吉は等身大のヒーローなんです」(内藤氏)
卯之吉は江戸で一番の両替商「三国屋」の主人・徳右衛門(竜雷太[83])の孫。教養も品格もあるが、人に対し関心を持たない。剣術はまるでダメ。気も弱い。おまけに金を湯水のように使う。
そんな卯之吉の性根を入れ替えさせようと徳右衛門が、金にものを言わせ南町奉行所の同心にするが、やっぱり頼りない。しかし、何故か太鼓持ちの銀八(石井正則[49])が進んで岡っ引きに、侠客で大親分の荒海ノ三右衛門(渡辺いっけい[60])も味方になり、他力本願で事件を次々と解決していく。そんな中、人に心を開かなかった卯之吉にも変化が生まれて行く。
池波正太郎や藤沢周平の小説を原作とする時代劇とはかなり異なることもあって、内藤氏はあえて「痛快娯楽時代劇」と謳っている。
「いろいろな時代劇があっていいと思うんです。若い人たちの目線でも面白がってもらえるような作品になればと思いました」(内藤氏)
時代劇で大切なものは何か
異色の内容でも時代劇として十分成立している。それは時代劇に通じた出演者たちの所作(着物の着方や身のこなし方、仕草など)が美しく、形式美を分かった上でそれぞれが遊んでいるからだという。
「仮に出演者が所作事を知らず、それを指導する先生もいなかったら、極端な話、着物姿なのにスーツを着ている時と同じように歩いてしまいます。観る方が違和感をおぼえたら時代劇の世界に入れません。出演者の皆さんは時代劇の決め事をきっちり守っています。分かり易く言うと、殿様の前で配下の者たちは決して立ち上がらない、とかですね」(内藤氏)
主演の中村隼人は、幼い時から所作が身に付いている。歌舞伎俳優はみんなそう。それもあって、時代劇で引っ張りダコなのだ。
昨年の大河「鎌倉殿の13人」には坂東彌十郎(66)、片岡愛之助(50)、中村獅童(50)らが出演した。今年の「どうする家康」には市川右團次(59)、中村勘九郎(41)が登場する。
「着物姿で刀を持ったら時代劇になるかというと、そうではないんです。それでは格好だけが時代劇で、現代劇をやっているようにしか見えません」(内藤氏)
もちろん、歌舞伎界以外の人間も時代劇の名優になれる。古くから「背の高い俳優に時代劇は難しい」とも言われるが、そんなことはないそうだ。
「ある俳優さんのマネージャーから『うちは大きいから時代劇は無理ですか』と聞かれたのですが、『大丈夫ですよ』って答えました。歩く時、腰を落とせばいいんです。また、その俳優さんは足が長い一方で、座高は高くなかったので、座った場面も違和感がありませんでした」(内藤氏)
背の高い俳優は増えたが、建物の寸法や畳の大きさは昔のまま。
「これは変えられません。変えたら洋風建築みたいに見えてしまいますから(笑)」(内藤氏)
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