生誕100年・池波正太郎の小説はなぜ今も実写化が続く? 12歳から株屋で勤務、軍隊も経験…培われた人間観とは

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 今年生誕100年を迎えた時代小説作家、池波正太郎。没後30年以上を経てもなお作品の人気は衰えを知らぬばかりか、映像化は引きも切らず。代表作『剣客商売』を始め、なぜ多くの人々を魅了するのか。時代小説を知り尽くす第一人者・縄田一男氏にその世界を俯瞰してもらった。

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 昨年末の12月30日、NHKは池波正太郎生誕100年BS特集時代劇として「まんぞく まんぞく」を放送した。制作スタッフの原作への深い理解度に加え、主役の若い二人、石橋静河、永山絢斗の好演も相まって、久し振りに良い時代劇を観たという幸福感に浸ることができた。

 今年、生誕100年を迎える池波正太郎の作品は『仕掛人・藤枝梅安』『鬼平犯科帳』と映画化が続き、その作品も版が絶えることがない。

 前述の石橋静河が演じた女剣士・真琴は、明らかに『剣客商売』の佐々木三冬から派生した人物であることが了解されよう。

代表作「剣客商売」

『剣客商売』は「小説新潮」の昭和47年1月号から連載が開始され、第1話「女武芸者」は、主人公の一人である秋山大治郎が登場するところから始まる。父・小兵衛のもとで剣の手ほどきを受けていた大治郎は、15の時、山城の国は大原の里に、父の恩師である辻平右衛門を訪ね、平右衛門の死まで、父の弟弟子・嶋岡礼蔵に師事。以後、4年の廻国修業を経て江戸へ戻ってきた24歳の夏、小兵衛のつてで、浜町にある老中・田沼意次の中屋敷での剣術試合で7人を勝ち抜き、江戸の剣術界に華々しいデビューを飾る。

 遡って小兵衛は、12歳の時、父である忠左衛門と懇意であった辻平右衛門の道場に入門。前述の嶋岡礼蔵と並んで平右衛門門下の“竜虎”と呼ばれ、無外流の使い手となった。平右衛門が大原の里に隠棲してからは四谷中町に道場をひらき、門人も増えたが、何を思ってか、57歳の折、道場を閉じ、鐘ケ淵に隠棲した。

 大治郎が江戸へ戻ってくると、「実は、な。このごろのおれは剣術より女のほうが好きになって……」「あるとき、豁然(かつぜん)として女体を好むようになって、な。お前が旅へ出たのち、四谷の道場をたたんで剣術をやめたことは、やはりよかった」などと言ってまじめ一途な息子を驚かす。そして今では、40も年下の下女おはるに手をつけ夫婦同然の生活をしており、後に正式に夫婦となる。

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