米財務長官は「景気後退の回避は可能」というが…世界各地で起きている新たな金融危機の火種

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金融システムに与える負のインパクト

 住宅価格の下落はそれ自体、景気にとって大きなマイナス要因だが、金融システムに与える負のインパクトも忘れてはならない。

 IMFは2月3日「中国のGDPの最大3割を占める不動産業の低迷が続けば、金融リスクを誘発しかねない」との懸念を示している。中国恒大集団のように巨額の債務を抱えて経営難に陥っている不動産開発企業が全土に遍在していることが背景にある。

 欧州連合(EU)の金融リスク監視当局も1月下旬「商業用不動産市場部門が急速に悪化して金融市場にシステミックリスクが生じる恐れがある」と警告を発している。

 2008年のリーマンショックの発生メカニズムは「金利上昇で不動産関連の債権が不調となったことが災いしてクレジット市場が大混乱に陥った」というのが定説だ。

 クレジット市場では貸出債権や社債など様々な信用リスクを加工して証券の形で売買する「証券化商品」や、信用リスクを原資産とする「派生商品(デリバティブ)」などが取引されている。クレジット市場は取引される金融商品が複雑なため、流動性が低くなる場合が多い。足元の状況は、金利急上昇のあおりを受け、「ひずみ」が再び蓄積しつつある。

 ブルームバーグによれば、1月下旬時点で約1750億ドル相当の不動産関連の債権がディストレスト(支払い不能に陥った状態)状態にあり、「クレジット市場はリーマンショック以降で最大の試練に直面している」との声が聞こえ始めている。

 今後、世界の不動産価格の下落が進めば、亀裂が生じつつあるクレジット市場へのストレスがさらに高まり、最悪の場合、新たな金融危機が起きる可能性は排除できない。

 残念ながら、今年の世界経済を楽観するのは早計なのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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