米財務長官は「景気後退の回避は可能」というが…世界各地で起きている新たな金融危機の火種

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「インフレ率が著しく低下している中で経済は堅調に推移している」

 2月6日の朝のTVの情報番組に出演したイエレン米財務長官はこのように述べ、さらに1月の失業率が約53年ぶりの低水準となったことも踏まえ「米国の景気後退の回避は可能だ」と自信のほどを見せた。

 世界経済についても楽観論が広がりつつある。

 米シティグループは1月中旬、今年の世界経済が景気後退に陥る可能性を50%から30%に引き下げた。ハードランディングの可能性も低下しているという。

 だが、筆者は「楽観は禁物だ」と考えている。

 国際通貨基金(IMF)は2月2日「世界の中央銀行は金利をより高く長期にわたり維持すべき」と主張している。

 昨年、世界の主要な中央銀行は高騰するインフレを抑制するため、過去20年間で最も速く、かつ、最大規模の利上げを実施した。S&Pグローバルによれば、中央銀行の引き締めにより、債務を抱える政府、企業、家計に今後数年間で8兆6000億ドルの追加金利負担が生じることになる。

 金利引き上げの効果にはタイムラグがある。その悪影響は住宅ローン金利の高騰による不動産市場における需要減少という形で現れてきている。

各国で揺らぐ不動産市場

 ハーバード大学教授(経済学)のケネス・ロゴフ氏は1月中旬「金利の高止まりにより、今年から来年にかけて世界の不動産市場は著しい価格下落に直面する」との認識を示している。

「住宅ローン金利が2倍になれば住宅価格は2割以上下落する」との試算がある ように、世界の多くの国々で不動産市場が揺らぎ始めている。

 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が「住宅市場は著しく弱まっている」と語っているとおり、米国の住宅価格は5か月連続で下落している。

 過去25年にわたって住宅ブームに沸いた隣国カナダでは住宅価格の下落が顕著になっている。カナダ最大の都市であるトロント1月の住宅価格はピーク時から22%低下した(2月3日付ロイター)。

 この事態に危機感を抱いたカナダ銀行(中央銀行)は2月7日「利上げが住宅所有者に大きな打撃を与えている」として利上げ停止を早期に実施する可能性について言及した。

 カナダと同様、不動産市場が活況を呈していた豪州やニュージーランドでも住宅価格の調整が本格化している。

 世界最大規模を誇る中国の不動産市場は、政府の厳しい規制が仇となり、世界に先駆けて不調に陥った。その後、政府が刺激策を講じているものの、一向に改善していない。

 前述のロゴフ氏は1月初旬の米経済学会で「中国の国内総生産(GDP)の6割を占める小規模都市の不動産価格が2021年初めから1年足らずで20%も急落した」という分析結果を示し、市場関係者に衝撃を与えた。

 欧州の不動産市場も悪化しているが、高いインフレ率が続いているため、欧州の中央銀行はFRBのように利上げのペースを落とすことができないのが悩みの種だ。

 中でも深刻なのは英国の不動産市場だ。

 英国の昨年12月の住宅価格は13年ぶりの低水準となり、今年1月の住宅価格も引き続き下落した。住宅ローン金利の上昇に加え、数十年ぶりの厳しい生活費の高騰により、英国の住宅市場の崩壊が始まっているとの危機感が高まっている。

 ドイツの昨年12月の住宅価格指数もピークの6月から5%低下し、下げ止まりの兆しは見えていない。

 幸い、日本の住宅市場は低金利政策のおかげで変調をきたしていないが、住宅ローン金利は徐々に上昇しており、今後の動向には要注意だ。

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