水産会社から「新しい“食”」を創造する会社へ――浜田晋吾(ニッスイ代表取締役社長執行役員)【佐藤優の頂上対決】

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「新しい“食”」に向かって

佐藤 先ほどのミッションの中にあった「新しい“食”」は、どんなものを考えられているのですか。

浜田 新しい“食”というと、R&D(研究開発)や商品開発を思い浮かべられる方が多いのですが、私はもう少し広く考えています。例えば、弊社は日本で初めてトロール船の中に急速冷凍装置を付けた会社です。従来は取れた魚を氷詰めにして何日もかけて港に運び、売っていました。そうするとやはり鮮度が落ちる。それを新鮮なまま凍らせて持って帰ることも新しい“食”だと思うのです。

佐藤 仕組みそのものまで含めた新しい“食”なのですね。「垣根を越える」ともおっしゃっていますが、それともつながっていきますね。

浜田 ええ。弊社には大きく水産、食品、ファインケミカル、物流の4事業があり、縦割り組織になっています。この体制でずっとやってきましたが、その隙間や重なりの中で何かができる可能性がある。例えば、昨年から水産と物流を組み合わせた事業を始めています。スーパーのバックヤードでは魚を切り身にしていますね。それを弊社で引き受ける。水産部門が調達してきた魚を冷蔵倉庫に入れて物流部門が店に運んでいたのを、一部倉庫で軽加工をしてから、店舗に運ぶようにしたのです。

佐藤 いまは人手不足ですから、スーパーも助かる。ニーズはあるでしょうね。

浜田 また食品事業には冷凍食品、練り製品、缶詰、チルド食品などの部門がありますが、冷凍食品とチルド食品を協働させる事業も始めました。チルド食品ではコンビニ向けのお弁当やお総菜を作っています。特にお弁当のようなアッセンブル(集合)させる細かい仕事が得意です。一方、冷食は大量に作ってコストを下げて売るという事業です。本来なら合わないのですが、アッセンブルしたものを冷凍させて、商品化することにしたんです。もともとチルド工場だったところをアッセンブル機能を残して冷食工場に変え、新しい商品を送り出そうとしています。

佐藤 材料は同じでも、やり方を変えると、新しい光景が見えてくる。

浜田 それは商品開発でも同じですね。例えばフィッシュソーセージです。ちくわは日持ちがしない。じゃあ、魚肉を筒状の包材に詰め両端を糸で留めてボイル殺菌してみたらどうだろうと始まったのがフィッシュソーセージで、70年続く商品になりました。

佐藤 おやつにもなるし、便利な食品です。

浜田 つまりいろんなところに題材がある。いまならスケソウダラのタンパク質が速筋(素早く収縮する筋肉)を増強することがわかりましたから、これなどもいろんな商品に応用できます。

佐藤 かつてロシア人は、タラの食べ方がわかっていませんでした。フィレ(切り身)にして冷凍、解凍を繰り返すので、パサパサになるんです。それでだいたい猫の餌になっていた。

浜田 それはもったいない。

佐藤 いまはロシアでも半ば高級品になっていますが、それはイギリスからフィッシュ&チップスの文化が入ってきたからです。フィッシュは、タラを揚げたものですから。

浜田 イギリスは、ウクライナで戦争があっても、ロシア産スケソウダラのフィッシュブロックの輸入はやめていませんね。

佐藤 国民食ですからね。やはりニッスイさんもウクライナ侵攻の影響は大きいですか。

浜田 一番ダメージを受けているのは欧州のグループ会社です。イギリスと同じようにEUも輸入をやめていませんが、値段は上がっている。また揚げ油のヒマワリ油はウクライナ産でしたから、供給がほぼなくなりました。

佐藤 ヒマワリ油は欧州で一般的な油ですね。欧州のポテトチップスはそのヒマワリ油で揚げてあるので、独特の味がします。

浜田 欧州は天然ガスでも大きな影響を受けていまして、エネルギー価格が3~4倍になっています。日本の事業もエネルギーでは大きな影響を受けています。今後、ウクライナはどうなると見ておられますか。

佐藤 今年の山場は二つあり、一つは4月か5月です。ウクライナは鉄道が電化されていますから、発電所や変電所が破壊されると機能しなくなる。このため昨年収穫した穀物などが運べずダメになっています。その影響で春には食糧がなくなる。そうすると戦況に影響が出ますし、西側に食糧支援の依頼がきます。

浜田 そうなのですか。

佐藤 次は12月です。ドイツはこの秋冬は比較的暖かく、まだガスの備蓄もあります。ただ今後はアメリカから買うことになり、値段が跳ね上がる。もしドイツがそれに音を上げ再びロシアのガスに依存するようになると、年内に戦争が終わらなくなります。そして10年戦争になる。

浜田 10年ですか。ロシアはそれだけ持ちますか。

佐藤 持ちます。今回の戦争にはルールがあり、アメリカはロシア本土には使用しないという約束のもと、ウクライナに武器を提供しています。アメリカの目的はウクライナの勝利ではなく、ロシアを疲弊させることです。こうした「管理された戦争」では、ロシアが潰れるところまではいきません。

浜田 ロシア産の魚は中国で加工して欧州に運んでいるものもあります。その中国もロックダウン解除でコロナが大流行し、工場が操業できない恐れが出てきました。いま東南アジアなどに生産をシフトさせようとしていますが、どうも今年も落ち着いた世の中にはなりそうにないのですね。しっかり情勢を見極めていかねばならないと痛切に感じています。

浜田晋吾(はまだしんご) ニッスイ代表取締役社長執行役員
1959年東京都生まれ。東京大学農学部卒。同大学院農学系研究科水産学専門課程修士課程修了。83年日本水産入社。2005年生産推進室長、08年八王子総合工場長、11年山東山孚日水有限公司総経理、中国室長、14年食品生産推進室長、執行役員を経て17年に取締役執行役員。18年常務、19年代表取締役専務、20年最高執行責任者となり21年より現職。

週刊新潮 2023年2月9日号掲載

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