水産会社から「新しい“食”」を創造する会社へ――浜田晋吾(ニッスイ代表取締役社長執行役員)【佐藤優の頂上対決】

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おいしくなった冷凍食品

佐藤 焼きおにぎりに限らず、冷凍食品分野はどんどん進化していますね。

浜田 この10年ほどの間に急速凍結の技術が発達したり、さまざまな工夫がなされて、明らかに冷凍食品はおいしくなっています。コロナで巣ごもり生活になったことで、冷凍食品の購入機会は増えました。もともとある程度保管できて品質も変わらないという利点がありましたが、食べてみたらおいしい、と皆さんがお気付きになった。

佐藤 それにかつて冷凍食品には手抜き料理のイメージがありましたが、ほとんどなくなりました。

浜田 一人暮らしの人も多いですし、家族構成や生活スタイルが変わってきましたから、認知度が上がってきたのは確かですね。

佐藤 時代の要請といえますね。

浜田 一方、コロナ禍では、ちくわやカニかまもよく売れました。こちらは製造日から10日くらいしか持ちませんが。それでも売れたのは、「即食」の商品だからなんですね。買ってすぐ食べられる。冷凍食品は解凍し、その後に調理が必要なものもある。電子レンジで待つことのできる限度は6分といわれています。

佐藤 確か、ちくわも大きなシェアを占めていますね。

浜田 家庭用のちくわやフィッシュソーセージのシェアも一番です。

佐藤 また缶詰も減塩でおいしいものを作られていますね。私は透析を受けているので、日ごろから塩分量を常に気にしているんです。

浜田 そうでしたか。減塩は早くから取り組んでいます。塩はNaCl(塩化ナトリウム)ですね。それをKCl(塩化カリウム)に置き換える。

佐藤 ナトリウムをカリウムにするのですね。

浜田 ええ、ただ全部KClに置き換えると苦味が出てしまいます。だから苦味を抑えつつ、KClの効果を最大限引き出すための方法を研究所で探ってきました。その一つがパセリなんですね。パセリをエキスに使うことで、KClの苦みを最小限に抑えつつ最大の味覚を出すことができます。

佐藤 醤油も全面的にカリウムにしてしまうと、味が大きく変わります。

浜田 それはそうでしょうね。醤油は液体なのでナトリウムだけ抜くことができますが、サバ缶など海産物の缶詰ではそれができない。だからいろいろ試行錯誤して、よりおいしい缶詰を追求しています。

佐藤 缶詰の未来はどのように見ておられますか。

浜田 これから大きく伸びることはないでしょうね。ただ常温で日持ちがして携帯もできると考えれば、可能性はあると思います。災害のような非常時には大活躍しますし、それに備えて非常食として置いておくこともできる。

佐藤 私は鈴木宗男事件に連座して逮捕され、東京拘置所で512日間過ごしました。そこで缶詰のありがたさを知ったんです。

浜田 拘置所で缶詰が食べられるのですか。

佐藤 缶詰リストがあって、いろいろな缶詰が買えます。

浜田 それはおやつですか。

佐藤 補食と言いますが、文字通り「臭い飯」と言われた麦飯とたくあんの時代に、おかずを自費で賄っていたことの名残りなんですね。ただプルトップ缶は禁止です。

浜田 ああ、確かに危険ですね。

佐藤 普通の缶詰を昔ながらの缶切りで開けて食べます。毎日、午前10時と午後3時に「開缶報知器」という掛け声があり、報知器のボタンを押すと缶切りが与えられます。1日2回、1回に3缶まで開けることができる。

浜田 では缶詰を食べると、当時のことを思い出して嫌な気分になるのではないですか。

佐藤 いえいえ、なりません。拘置所の生活は拘置所の生活としてそれなりに面白かったですよ。

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