「世間の目に負けて働いてしまう」 作家・燃え殻さんが疲れると「労働に向かない友人」に会いたくなる理由

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風呂なしアパートに住んで25年の友人

 作家・燃え殻が「週刊新潮」で連載するエッセイ「それでも日々はつづくから」が100回を迎えた。ついつい世間の目を気にして「働いてしまう」燃え殻が、風呂なしアパートに25年住み続ける「働かない友人」にふと会いたくなってしまう理由とは。

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 高円寺の風呂なしアパートに住んで25年の友人がいる。人生に疲れると、彼の顔が見たくなる。彼はかたくなに働かない。25年で彼が働いた日は、1カ月もないと思う。「それはどうなの?」と必ず突っ込まれる方法で彼はなんとか生活しているのだが、相当に「それはどうなの?」案件なので、ここでは詳細は割愛する。

 とにかく彼は労働に向いていない。僕だって本来向いていないが、延々と働いてきてしまった。「それを向いているっていうんだよ」と突っ込まれそうだが、彼から「お前、仕事するの向いてないよ」と言われたことがあるので、確かな筋の情報として信じてもらいたい。

 車を買うわけでもない、時計も買わない、家も買わない、服も別に無印良品でいいし、グルメでもなんでもない。女遊びが過ぎるわけでもない。借金もローンもない。そんなに働くいわれがないのだ。

世間の目を気にしてしまう

「人は働くもんだ」くらいの理由でやってきてしまった。やり過ぎてしまった感すら自分の中にはある。世間の目さえ気にしなければ、あっという間にその友人の横で万年こたつに入って、一日の大半を過ごす人間になれた。

 世間の目、親の「健康第一よ、でも世間の目ってそれ以上よここだけの話」にもことごとく負けてきた。機械のようにほとんど毎日決まった時間に起きて、決まった場所に行って仕事をしてしまう。会社を休職する前はもちろん、休職してからも朝は起きるし、仕事場を借りてそこで原稿をやって、メールを返す。メールなんて返すのが早過ぎて、編集者から「寝てください」と心配されるほどだが、これが器用に寝てもいる。どうにも人間ぽくないのだ。

 働かないその友人は一丁前にSNSはやる。彼のアカウントをこの間のぞいてみたら、政治的発言をバンバンして、ネットの世界で有象無象と思いっきり戦っていた。若干うらやましかった。僕も今の政治に言いたいこともぼやきたいこともたくさんあるが、ほとんどの場合押し黙って生きている。飲みの席で、少し皮肉を言う程度だ。他人の反応を先読みしていて、色付けされるのが怖いのだ。まったくもって人間ぽくない。

 働かない友人はさらに一丁前に複数の女性と付き合っている。「それはどうなの?」と必ず突っ込まれる行い多数なので詳細はこれまた割愛するが、彼と付き合っている女性たちがみんな不幸っぽくないのだ。こっちは一人の女性を幸せな気分にすることすらできないまま生きてきてしまったのに。

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